(【疑惑の旅】高岡か奈良か(シーン13)の続きである)
「その後(東大寺大仏殿拝観後)、ようやくお二人はんはデートっぽい店に入ったんでんねん」
奈良の特派員よ、もういいだろう。エヴァンジェリスト氏と連れの若い女性がどういう関係が分ってきたのだ。
エヴァンジェリスト氏が、「タッチーも一緒か?」と口にしたということは………
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それは、やや変った名前の店であった。
「森のカフェ ひがしむきGardens」
それが、エヴァンジェリスト氏と連れの若い女性が入った、その店の名前であった。奈良の地銀「南都銀行」本店の斜向いに位置する店だ。
ベーカリー・カフェのようである。
「何故、『ひがしむき』か分るか?」
エヴァンジェリスト氏は、連れの若い女性にそう訊きたかったようだ。知識をひけらかしたかったのだろう。
しかし、連れの若い女性は、エヴァンジェリスト氏の問いに答えないどころか、気付きもしないように、一心にiPhoneをいじっていた。
二人が注文したのは、レシートには共に「フロート」と書いてあったが、連れの若い女性は、クリームソーダ、エヴァンジェリスト氏は、ヨーグルト・パフェのようであった。
「何故、『ひがしむき』か分るか?」というエヴァンジェリスト氏の問いに反応しなかった連れの若い女性が顔を上げた。
クリームソーダを飲む為….ではなかった。
クリームソーダは、顔も上げず、iPhoneをいじりながら飲んだのだ。
ヨーグルト・パフェを口にしたエヴァンジェリスト氏も同じように顔を上げた。二人は、顔を合せた。
「うまい!」
エヴァンジェリスト氏は思わず、そう口にした。
連れの若い女性は、何も云わなかったが、エヴァンジェリスト氏と思いが同じであったことは明白であった。
「しかしだなあ、この店は『ひがしむき』ではないんだ」
図に乗ったエヴァンジェリスト氏の講釈が始ろうとした。
この店は、近鉄奈良駅近くの東向き商店街にあるから「ひがしむき」と称しているのであろうが、実際に向いているのは西向き、のはずだ。
エヴァンジェリスト氏は、そう云いたかったのだろう。
そもそも「東向き商店街」が何故、「東向き」なのかと云うと、その通りの店が総て、通りの東にある興福寺に向けて出来たから(つまり、通りの西側にだけ店ができた)、らしいが、今は、通りの両側に店があり、「森のカフェ ひがしむきGardens」は、東側に位置しており、従って向きは西向き、ということになる…….
なんて、講釈を連れの若い女性が聞くはずがない。
クリームソーダのうまさに、不覚にもエヴァンジェリスト氏と目を合せてしまったが、すぐに自分を取り戻し、彼女は再び、iPhoneに向ったのであった。
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「判りはりましたか。ええ、あれはデートやおまへんな」
特派員の言を待つまでもなかった。
「タッチーも一緒か?」ということは、そう二人の関係は…………
(続く)
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