ラベル プロレス の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示
ラベル プロレス の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示

2023年5月20日土曜日

チョコガム問題【非ハーバード流屁理屈論】(その128)

 


「(プロレスが、八百長だろうが、タンバリンを叩こうが、どうでもいいのに…)」


と、ビエール・トンミー氏が、部屋の壁に目を遣りながら、友人のエヴァンジェリスト氏にどうメッセージを打とうかと思案していたが、エヴァンジェリスト氏の方は、構わず、持論を続けるiMessageを送ってきた。



====================================


「日本のプロレスも今はもう、そうじゃあないかあ、思うんよ。あまり見んし、見る機会も殆どないんじゃが、インディ団体のプロレスはそうじゃあないかあ思うし、メジャー団体でもそうじゃけえ」

「ワテは、『猪木』と『馬場』くらいしか知らへんで」

「私見なんじゃけど、『馬場』の頃の『全日本プロレス』は、当時から『そう』じゃと思うとったしし、『猪木』以後の『新日本プロレス』じゃって、『そう』じゃあ思うんよ。『長州力』が一時、新日本プロレスで権力を持ってしきっとったけど、ワシからすると、『長州力』の最大の罪は、ハイパー・レスリングながらも、『新日本プロレス』に『コリア・グラフト・タンバリン』的な要素を強く入れ過ぎたことじゃあ、思うとるんよ」

「ああ、『長州力』いうんは、知らんこともなかったのお。最近、テレビでよう出とるような気もするが、何云うとるんか、聞き取れん奴っちゃな、確か」

「でものお、『長州力』の頃の『新日本プロレス』は、今からしたらまだマシじゃったあ、思うんよ。今の『新日本プロレス』は、もう完全に『猪木』の『新日本プロレス』とは違うけえ。レスラーたちは、そりゃ、一所懸命『プロレス』しとるんよ。もの凄う危ない無茶苦茶な技もようけ使うけえ、それはそれで止めときんさいやあ、いう感じなくらいなんじゃけど、レスラーたちには悪いんじゃが、全然、心が打たれんのよ。どうしてかあ、云うたら、『コリア・グラフト・タンバリン』じゃけえなんよ。『戦い』がない、いう云い方もあるんじゃけどね」

「タンバリン持って戦おうても戦わんでも、ワシには、どっちでもエエで」

「『コリア・グラフト・タンバリン』の度を超すと、何だか相撲の『しょっきり』のようにも見えてしまうんよ」

「何や、『しょっきり』て?」

「ああ、『しょっきり』はのお、相撲の見せもんで、相撲の禁じ手を面白可笑しゅう紹介してみせるもんなんよ」




「ああ、そう云うたら、テレビで見たことあんような気もするで」

「今のプロレスは、『しょっきり』みたいなプロレスじゃけえ、ビデオ録画した試合を見る時、もう何年もワシは、1.3倍速で見とるんよ。つまらんけえ」

「そこまでして見んでもエエんやないか?」

「プロレスはのお、今云うたように、『見せる』要素があるし、殺し合いじゃあないけえ、一種の予定調和、というか、暗黙の諒解がプロレスにはあるんよ。じゃけど、それは、ある時、不意に破られるんよ。通常、暗黙の諒解の限界は超えのんじゃが、相手を潰しにかかるんよ。それで勝負が決るんよ。でもの、ここでいう『勝負』は試合の結果じゃあないんじゃけえね」

「何、云うとんのか、さっぱり分りまへんで」

「この辺の間合いが抜群にうまかったんが、『アントニオ猪木』なんよ。『猪木』の場合、暗黙の諒解の限界をこえることもしとったように思うんじゃけどの」

「アンサンの場合、暗黙の諒解も、明示の諒解もなんも、限界を超えとるで」


====================================



「(そうなんだ。アイツは、限度というものを知らないんだ)」


と思いながら、ビエール・トンミー氏は、友人のエヴァンジェリスト氏が作るオゲレツという言葉では云い尽くせないヘドを吐きたくなるようなアイコラの数々を思い出した。



(続く)






2023年5月19日金曜日

チョコガム問題【非ハーバード流屁理屈論】(その127)

 


「(あ、いや。プロレスが八百長だなんて云ってしまうと、アイツ、100倍云い返してくる)」


と、ビエール・トンミー氏が、友人のエヴァンジェリスト氏に対する警戒心から、身をキュッと引き締めたが、エヴァンジェリスト氏の暴走を止められるものではなく、エヴァンジェリスト氏から質問であった質問ではないiMessageが届いた。



====================================


「アンタあ、『ルー・テーズ』知っとるじゃろ?」

「はあ?なんや、プロレスラーなんか?」

「おお、やっぱり『ルー・テーズ』くらいになると、アンタも知っっとんじゃね。伝説のレスラーいうてもエエくらいじゃけえね」

「知っとるとは云うとらへんで」

「その『ルー・テーズ』がのお、云うたんじゃそうなんよ。『今のプロレスは“コリア・グラフト・タンバリン”だよ』とのお」

「はあ?『タンバリン』?なんで、『タンバリン』が出てくんねん?興味はあらへんけど、プロレスラーがタンバリン叩くんか?」




「また聞きじゃけえ、『コリア・グラフト・タンバリン』の意味、いうか、英語表現は分らんし、ひょっとしたら、『コリアン・クラフト・タンバリン』云うたんかもしれんとは思うんじゃけど、問題は、そこじゃないんよ。『ルー・テーズ』が、『コリア・グラフト・タンバリン』で何を云いたかったか、いうことなんよ」

「問題は、そこにもどこにもあらへん思うんやがな」

「プロレスは、ただの格闘技と違うて、『見せる』要素があるし、殺し合いじゃあないけえ、俗にいわれるような『八百長』じゃあないんじゃが、相手の技、動きに合せた動きをとるんよ。相手の技を受けてみせる部分があるんよ。例えば、ロープに飛ばされると、はねかえってきて、ショルダー・スルーで投げられることもある訳よおね」

「何か知らへんが、興味ないさかい、アンサンの説明、スルーするで」

「『ルー・テーズ』の時代でも、こうような部分はあったはずなんじゃが、彼が敢て、『今のプロレスは“コリア・グラフト・タンバリン”だよ』と云うたんは、『それ』が度を超しとる、もしくは、『それ』が下手過ぎるで、と云いたかったんじゃあないかあ、と思うんよ」


====================================



「(アイツ、こっちが話をスルーするって云ってるのに、勝手に喋り続けやがる)」


と、ビエール・トンミー氏は、今更ながらに友人のエヴァンジェリスト氏に呆れ、その友人からののiMessageが映るiPhone 14Proの画面から視線を外し、部屋の壁を見るでもなく凝視めた。



(続く)






2023年5月18日木曜日

チョコガム問題【非ハーバード流屁理屈論】(その126)

 


「(だけど、アイツ、態と、『イェイツ』ー!、と云って、ボクを混乱させようとしたんだ。『伊藤道郎』っていう『舞踏家』のことも知らなかったが、その息子の結婚した相手が、アイツがよく知っていた『山口瞳』の妹だとか、話をどんどん派生させて、コチラを混乱させて喜んでいたんだろう。でも、『舞踏家』を『武闘家』だなんて、語るに落ちたな)」


と、ビエール・トンミー氏は、怒りと嘲笑とが入り混じった感情を抱いていると、友人のエヴァンジェリスト氏が、更にビエール・トンミー氏の怒りと嘲笑とをかいそうなiMessageを送ってきた。



====================================


「いやの、最近のある種の『武闘家』は、ある種の『舞踏家』みたいなところがあるけえね」

「け!また、言葉遊びかいな。『ぶとうか』いうんもアレじゃし、『ある種の』いうんも勿体つけとるしのお」

「違うんよ。『武闘家』いうんは、ありそうでなさそうで、どっちか云うたら、ゲームの世界なんかの職業みたいなもんなんかもしれんけえ、でも、戦う人のことじゃろうし、でのお、プロレスラーは、ある種の『武闘家』かのお、思うたんよ」




「なんや、またプロレスの話かいな」

「それにの、プロレスラーも色んなんがある、云うか、おるけえ、その意味でも『ある種の』なんよ」

「余計、云うとることが分らへんで」

「じゃあ、はっきり云うけどの、最近のある種の『武闘家』いうんは、猪木とか猪木の教えを守るプロレスラーじゃない、それも、特に最近のプロレスラーのことなんよ」

「なんかゴチャゴチャしとるが、プロレスなんて、なんにしても興味あらへんで」

「ある種の『舞踏家』みたいなところがある、いうんは、『舞踏家』じゃないんじゃけど、『舞踏家』みたいに、付けられた振りを踊るようなことをする、いうような意味なんよ」

「さっぱりわやや、あかしまへん」

「要約するとのお、猪木とか猪木の教えを守るプロレスラーじゃない、それも、特に最近のプロレスラーは、『舞踏家』みたいに、付けられた振りを踊っとるような感じじゃあ、いうことなんよ」

「どこが要約なんや?それに、要約もなんもいらへんで」


====================================



「ふん(プロレスなんて、どっちにしても八百長だろうに)


と、鼻を鳴らしたビエール・トンミー氏は、その鳴らした鼻を少し上向けるようにして、自身のプロレスに対する見方を表した。



(続く)






2021年2月21日日曜日

【ビエール先生の『クラス』講座】Eクラスな男・NGクラスな男[その6]

 

<注意>

ビエール・トンミー先生のiMessageによるベンツの『クラス講座』は、ベンツの幾つかの『クラス』に対して、またそのオーナーに対して、辛辣過ぎる評価があるかもしれないが、決して、それらのベンツ、のオーナーを侮辱、差別をするものではない。


西洋美術史としてビエール・トンミー先生の審美眼と、ハンカチ大学商学部卒の、しかも、SNCFの大家としてのビエール・トンミー先生のビジネス・センスとから、あくまで個人としての評価を述べるものである。


長年のベンツ・オーナーであるビエール・トンミー先生は、総ての『クラス』のベンツとそのオーナーを愛している。ベンツは、『評価』をするに値するクルマなのだ。『評価』をするに値しないモノについては、ビエール・トンミー先生は、言葉一つ吐くことはない。



[王道のEクラス(続き)]



「むか~し、昔、40年くらい前だが、月刊『ゴング』に、、英語を習得するには、ピロー・トーキングが一番だ、と書いてあったと思う。アントニオ猪木は英語ができる(後に、外国人記者たちとの会見には通訳を使うようになったが)。最初の奥さんが、アメリカ人だったからだ、とだ」


というiMessageをエヴァンジェリスト氏が、ビエール・トンミー先生に送ったのは、先生にドイツ人女性、フランス人女性と付合った経験があるのではないか、という疑惑を追及する為だった。


ビエール・トンミー先生は、BMWを『ベーエムベー』とちゃんと発音し、SNCF(フランス国鉄である)も『エス・エヌ・セー・エフ』とちゃんと発音するのだ。


しかし、先生は、その件に関しては、『ノーコメント』の姿勢を崩さない。


「ああ、40年くらい前かあ、その頃はなあ、ベンツには大きな車しかか無くて。そう、今のSクラスや、ちょっと小さい車としてミディアム・クラスという名称で今のEクラスが出てきたんや」


ドイツ人女性、フランス人女性との交際疑惑にはすっとぼけ、ビエール・トンミー先生は、ベンツの『クラス講座』を続ける。


「『ちょっと小さいミディアム』ちゅうても、Sクラスが鯨やさかい充分デカイんやけどな。まあ、云うて見たら、『Eクラス』は、シャチやな」

「おおー!シャチですか!『シャチ横内』のシャチですね

「はああ?なんやねん、『シャチ横内』て?」

「海外でプロレスラーになり、国際プロレスにも参戦した日本人悪役レスラーです」

「知らんがな、そんなもん」

「しかし、シャチは、英語で云うと『Killer Whale』ですかし、デカくて『原宿の凶器』の異名を持つ先生に相応しいですね」



「うっ…」

「いえ、アレのことではありません。先生のアレは見たことありませんから」

「見せてたまるか!」

「先生は、存在がデカくて『凶器』のようなキレモノということです」

「いや、今は、自邸でひっそりと暮らす年金老人やねん」

「しかし、お持ちの『Eクラス』が、先生の存在の大きさを隠せません」

「まあ、そういうことになるかもしれへんなあ」

『イイ~!』クラスだから『Eクラス』なんですね」

「はああ?」



(続く)




2021年2月20日土曜日

【ビエール先生の『クラス』講座】Eクラスな男・NGクラスな男[その5]



<注意>

ビエール・トンミー先生のiMessageによるベンツの『クラス講座』は、ベンツの幾つかの『クラス』に対して、またそのオーナーに対して、辛辣過ぎる評価があるかもしれないが、決して、それらのベンツ、のオーナーを侮辱、差別をするものではない。


西洋美術史としてのビエール・トンミー先生の審美眼と、ハンカチ大学商学部卒の、しかも、SNCFの大家としてのビエール・トンミー先生のビジネス・センスとから、あくまで個人としての評価を述べるものである。


長年のベンツ・オーナーであるビエール・トンミー先生は、総ての『クラス』のベンツとそのオーナーを愛している。ベンツは、『評価』をするに値するクルマなのだ。『評価』をするに値しないモノについては、ビエール・トンミー先生は、言葉一つ吐くことはない。



[王道のEクラス]



「Eクラス』は、ベンツの王道なのか?」


生徒であるエヴァンジェリスト氏が、iMessageでビエール・トンミー先生に確認した。


「ああ、王道も王道だ」


iPhone SE のiMessageの画面からも、ビエール・トンミー先生のしたり顔が浮かんでくる。


「ボクは、『王道プロレス』は好きではない。『一寸先はハプニング』な『猪木プロレス』が好きなんだがなあ」

「はああ?『王道プロレス』?『一寸先はナントカ』?そんなもんは知らんで。Eクラスはメルセデス・ベンツのど真ん中、中心、絶対に失敗出来ない車種、他社が目標とするデファクト・スタンダードなんや」



「猪木は、失敗を恐れなかったが…」

「BMWもアウディもEクラスに負けんように熱入れて同じクラスの車を作るんやで。Sクラスには勝てんさかいな。せやから、ベンツも『絶対負けへんで』と力一杯になって作る車がEクラスなんや」

「さすが先生!ちゃんと『ベーエムベー』と仰るんですね」

「当り前やないけ。BMWは、ドイツの会社やで。BMWは、ドイツ語では『ベーエムベー』やで」

「先生は、SNCFもちゃんと『エス・エヌ・セー・エフ』と発音されるし、フランス語もドイツ語も堪能でいらっしゃる。かつて、フランス人女性、ドイツ人女性とお付合いされた経験でもおありですか?」

「うっ…その件は、ノーコメントやで。事務所通してや。事務所通しても、ノーコメントやけどな」



(続く)



2021年2月12日金曜日

バスローブの男[その102=最終回]

 


「アータ、ひょっとして!?」


50歳台半ばとなったマダム・トンミーが、少女のように、両手を頬に当て、叫んだ。マダム・トンミーは、夫が自分でいつもは浸け置き洗いをするバスローブをその日に限って、いきなり洗濯機で洗っていることに、夫に疑問をぶつけながら、何やら思い当ったようであった。


「んん、まあ!」


マダム・トンミーは、口を大きく開けたまま、夫の眼を見据えた。


「…ああ、そうだ、そうだよ!」


妻が何を想像したのかは解らなかったが、ビエール・トンミー氏は咄嗟に、知らぬ妻の想像を肯定した。そして、ビエール・トンミー氏の口は、勝手なことを、まさに口走った。


「今夜、風呂上がり久しぶりに君の部屋に行こうかと思ってね。バスローブを着て。だから、21時間もかけられないのさ」


しかし、ビエール・トンミー氏は、云い終える前に、後悔した。


「えっ!まあああ!本当に!」


マダム・トンミーは、これも少女のように、足をバタバタとさせた。ビエール・トンミー氏は、もう後には退けなくなっていた。


「ああ、そうさ。覚悟してね」


覚悟しないといけないのは、自分の方であることは判っていた。


「じゃ、私も準備しなくっちゃ!」


何を準備するのか、マダム・トンミーは、脱衣場を出て、その前にある階段を軽やかに、スキップするように登っていったが、彼女も知らなかった、『そのこと』を。


「(さしずめ1975年のNWF戦のルー・テーズね)」


マダム・トンミーは、夫が往年の、『原宿の凶器』と呼ばれた頃の夫でないことは判っていた。しかし、夫との久しぶりの『プロレス』の『一戦』に気持ちが高揚していた。夫を、老いたとはいえ、全盛期のアントニオ猪木とNWF世界選手権試合を行った時のルー・テーズに擬えた。


「(凛々しかったわ)」


その試合のルー・テーズの入場時のガウンは、白ではなく茶色だったが、そのガウンを脱ぎ、両手を猪木に差し出し、探るようにしていたが、ヘッドロックに来た猪木をすかさずバックドロップで『投げる』、というより、『落とした』ルー・テースを思い浮かべた。


「(いいわ!落としてえ!)」


しかし、マダム・トンミーは知らなかったのだ。1975年のNWF戦の時のルー・テーズは、59歳であった。しかし、今、ビエール・トンミー氏は、既に66歳になっていたのだ。


「(いいわ!私を落としてえ!)」




バスローブを脱いだ夫の姿は、それをしばらく見ていないマダム・トンミーが思うよりも老いており、それは、もう『原宿の凶器』ではなく、『昔、原宿にいた今は、小器』に過ぎないことを。



(おしまい)





2021年1月31日日曜日

バスローブの男[その90]

 


「(嫌い、嫌い、って、逆に、それだけ意識してるってことだわ)」


『マダム・トンミーとなって久しいマダム・トンミー』には、風呂場から聞こえる洗濯機の音が、松坂慶子のことを『嫌い、嫌い』という夫ビエール・トンミー氏の叫びのように聞こえていた。


「(あの人、やっぱり『お局様』とも?...)」


と、会社にいた人事総務部の古株女性社員で、松坂慶子に酷似した、通称『お局様』と夫との仲を今更ながら疑い始めたが、


「(でもお、どっちにしてもあの人、もう『プロレス』する『元気』なくなちゃってるし…)」


10歳年上の夫が、別室で寝るようになって久しい。


「遅い時間まで色々、研究することがあるから、君が寝る邪魔になってはいけないからね」


夫は、別室で寝る理由をそう説明した。


「(あの人、『プロレス』よりも西洋美術史に関心があって、夜な夜な自分の部屋で、西洋美術史の研究ばかりしてるんだもの)」


マダム・トンミーは、ビエール・トンミー氏が、西洋美術史の中でも特に、『インモー』の研究を眼を凝らしながらしていることを知らない。


「(あの頃のあの人のバスローブ姿は、格好良かったのに)」


夫と初めて入った『逆さクラゲ』の部屋のバスルームを出たところで、バスローブ姿で仁王立ちする夫が、伝説の名レスラー『ルー・テーズ』のようにも見え、次に、アントニオ猪木のようにも見えたことを思い出す。


「(ふうう….今のあの人のバスローブの姿ったら…)」


マダム・トンミーは、脳裏に浮かぶ年老いた夫の貧相なバスローブの姿を消すように、頭を左右に振った。





(続く)





2021年1月30日土曜日

バスローブの男[その89]

 


「(あの人、本当に『凶器』を持っていたわ!)」


『マダム・トンミーとなって久しいマダム・トンミー』は、風呂場から聞こえる洗濯機の音も忘れ、渋谷の『逆さクラゲ』の円形ベッドでの夫との初めて『一戦』を思い出す。


「(秘書室の女性も、広報部の女性も、あの人の『凶器』を見たのかしら…?)」


今更ながら、夫の会社での女性に纏わる噂を思い出す。


「(美人SEと会議室で2人で何してたの!?)」


会社の会議室でこっそり『プロレス』するなんて規律違反、とは思ったものの、自分も夫と会社で『プロレス』してみたかった思いは、自分には隠せない。


「(でも、やっぱりフケツだわ、『お局様』だけは!)」


人事総務部の古株女性社員の通称『お局様』は、専務の『元カノ』だったとも云われ、社長とも『関係』を持ったことがあるとも噂されていたからだ(あくまで噂ではあったが)。


「(お綺麗はお綺麗だったし、あの時、あの人….)」


会社のエレベーター・ホールで、夫(当時は、結婚前で、まだ夫ではなかったがは、『お局様』と話している時、『お局様』の網タイツの脚に眼をやっているのを見たことを思い出した。『お局様』が、夫と話している最中に、手にしていた書類を落とし、上半身を前傾させながら、それを拾う時には、夫が、胸の開いたブラウスを着ている『お局様』の胸の谷間に眼を落とした像も脳裏に浮かぶ。


「(んん、もう!そう、『お局様』、松坂慶子にとっても似てて…ううん。あの人、松坂慶子は大っ嫌い、って云ってるもの)」


確かに、ビエール・トンミー氏は、テレビに松坂慶子が出てくると、チャンネルを変えよう、と云い出すのだった。


「なんだ、あの関西弁は!」


松坂慶子が、NHKの朝ドラ『まんぷく』に出演した時の関西弁がとても関西弁ではない、と怒り、それ以来、松坂慶子嫌いとなったのだ。


「(でも…..あの人、松坂慶子がテレビに出る度に、チャンネルを変えよう、と云いながら、いつも股間に手を当ててる…)」




(続く)




2021年1月29日金曜日

バスローブの男[その88]

 


「(『名勝負数え唄』も、今は昔だわ…)」


風呂場から聞こえる洗濯機の音を聞きながら、『マダム・トンミーとなって久しいマダム・トンミー』は、思った。


「(『原宿の凶器』っていう噂は本当だったけど…)」


と、初めて、その『凶器』を眼にした時の、いや…手にした時の衝撃を思い出す。


「(最初は、ピストルだと思ったんだわ)」


しかし、ピストルにしては大きずぎると感じ(実際にピストルを触ったことはなかったが)、


「(ロケットのようにも思えたけど)」


それが、彼女の手の中で成長し始めたので、


「(まさかツチノコ?って…)」


と、見たことも、触ったこともない未知の生物かと思っていたところ、




「(あの人ったら、『うおー!うおー!』って、ウフッ)」


と、思い出し笑いに、




「(あらっ!?)」


尿意のような、尿意でないようなものを感じ、マダム・トンミーは、両脚を窄めた。



(続く)



2021年1月28日木曜日

バスローブの男[その87]

 


「うん!君となら」


ビエール・トンミー氏は、『逆さクラゲ』の部屋の円形ベッドに並んで体を横たえる『マダム・トンミーとなる前のマダム・トンミー』に、『原宿のアラン・ドロン』な視線と共に、確信に満ちた語調で語りかけた。


「何回でもシタい!」


ビエール・トンミー氏の衝撃的な言葉に、マダム・トンミーは、瞬きを止め、


「え?!」


と、ビエール・トンミー氏を凝視めた。


「君となら、何回でもシタい!」


ビエール・トンミー氏は、同じ言葉を繰り返した。


「….ええ、私も」


眼を伏せながら、マダム・トンミーは応え、思った。


「(『名勝負数え唄』になるわ)


マダム・トンミーは、自らとビエール・トンミー氏との『戦い』を『ドラゴン』藤波辰爾と『サソリ固め』を得意とする長州力とのプロレスに準えた。




(続く)




2021年1月27日水曜日

バスローブの男[その86]

 


「え?」


『逆さクラゲ』の部屋の円形ベッドに並んで体を横たえるビエール・トンミー氏の言葉に、『マダム・トンミーとなる前のマダム・トンミー』は、思わず、口を開いたままにした。


「(トンミーさんが、負けた?)」


そうだ。ビエール・トンミー氏は、『ボクの負けだ…』と云ったのだ。


「(ということは、私の勝ち?)」


ピンとこない。


「(でも…最初の『戦い』は、私、気を失ったみたいになちゃったから…)」


前夜の『第1戦』は、ビエール・トンミー氏の猛烈な『凶器』攻撃に失神したような状態になり、最後をよく覚えていない。


「(あ!トンミーさんも、『ウーッ!』って倒れ込んだような…)」


そんな気もしたが、定かではない。


「(今の『戦い』も、2人とも倒れ込んじゃって、ダブル・ノックダウン?)」


円形ベッドという『リング』(だとマダム・トンミーは思い込んでいる)に並んで体を横たえている状態は、まさにダブル・ノックダウンか、


「(ひょっとして60分フルタイム・ドロー?猪木さんとドリー・ダンク・ジュニアのNWA世界ヘビー級戦の時みたいに?)」


とは思うものの、アントニオ猪木とドリー・ダンク・ジュニアの2度共、60分フルタイム・ドローで終ったNWA世界ヘビー級戦は、まだ幼かったマダム・トンミーは実際に見たことはなく、知識として知っているだけであった。




「(でも、トンミーさん、『ボクの負けだ…』って…やはり、私の勝ち?確か、トンミーさん、また、『ウーッ!』って…)」


壮絶な戦いをした後、プロレスラーは、自分がどんな試合をしたのか覚えていないことがあることを思い出した時、


「君となら…」


ビエール・トンミー氏が、『原宿のアラン・ドロン』な視線を送ってきた。



(続く)




2021年1月26日火曜日

バスローブの男[その85]

 


「君ってえ……ふう…」


ビエール・トンミー氏は、『逆さクラゲ』の部屋の円形ベッドで、『マダム・トンミーとなる前のマダム・トンミー』と並んで仰向けに寝たまま、息を漏らした。


「ふう…」


マダム・トンミーも、体を横たえたまま、首だけを横に向け、息を漏らした。


「(アラン・ドロン…)」


『戦い』を終え、汗に髪を濡らしたビエール・トンミー氏が、マダム・トンミーには、


「(やっぱり『原宿のアラン・ドロン』だわ。でも…)


『太陽がいっぱい』でヨットの上で髪を濡らしたアラン・ドロンに見えたのであったが、




「(知ってるわ。この美しい顔の裏に、いえ、美しい顔よりもっと下のところに、怖ろしい『凶器』を隠していることを!そう、『原宿の凶器』!)」


と、マダム・トンミーが、視線を横の男の下半身に眼を落とした時、


「ボクの負けだ…」


男は、マダム・トンミーの方に顔を向け、『獣臭』が消え、代わりに潔さを乗せた香りの口臭の言葉を漏らした。



(続く)



2021年1月25日月曜日

バスローブの男[その84]

 


「(負けないわあ!)」


『逆さクラゲ』の部屋の円形ベッドの上で、今や『獣』を超えた『怪獣』と化したビエール・トンミー氏の猛攻を受けながらも、『マダム・トンミーとなる前のマダム・トンミー』は、プロレスラーとしての意地を失わない。


「おお?おお?おおおおおー!」


ビエール・トンミー氏は、一瞬、動きを止めた。マダム・トンミーに体を返され、マダム・トンミーに組み敷かれたのだ。


「おお、おお、おおおー!」


マウント・ポジションを取ったマダム・トンミーも、『怪獣』と化し、『咆哮』を上げる。




「うおおおおおおおー!んぐっ!んぐっ!んぐっ!


ビエール・トンミー氏も呼応して、『咆哮」を、『音』を上げる。


こうして……どのくらいの時間が経ったであろうか。


「ああ……ふうう」


天井を見上げながら、ビエール・トンミー氏が、ため息をついた。


「ええ……ふうう」


マダム・トンミーも、天井を見上げながら、ため息をついた。


「ふふふ」


2人は、声を合わせて、笑いを漏らした。2人は、『逆さクラゲ』の部屋の円形ベッドに並んで仰向けに寝ていた。



(続く)