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2020年6月13日土曜日

【ビエール、まだまだ怒る!】何してんねん!?[後編]






「おお、そうだ。大変や。大変なことや。『づぼらや』が閉店になんねん!」

FaceTime(ビデオ通話)でビエール・トンミー氏がエヴァンジェリスト氏にぶつけてきた怒りは、『多目的トイレ』での『行為』のことではなかったのだ。

「なんや、『づぼらや』って?」
「『づぼらや』のフグ、『かに道楽』のカニ、それと『食い倒れ太郎』。これぞ大阪三点セットやないか。『づぼらや』がのーなったら大阪とちゃうで。シンちゃんは、マスクなんか配りょる場合とちゃうで。早う持続化給化付金を届けて『づぼらや』助けんかい!」
「すまん。フグの店か。ボクは、『づぼらや』とやらを知らなかった。まあ、持続給付金の支給遅れについては、政府も『真摯に受け止めている』だろう。受け止めているだけだろうが」
「何云うとんねん。『づぼらや』のある風景は世界遺産に指定せんとアカンで。通天閣も併せてや」
「持続化給付金については、申請初日にオンライン申請をしても一向に支給されず、後から、書類に不備があるとされたが、実は申請が殺到し、サーバーがパンクしたことで不備がないのに不備となっているという話を聞いたことがある」
「そんなん、言い訳になるかい!初日にアクセスが殺到するくらい想定すんのが当り前やろ!なに、アホンダラなシステムを作ってんねん!『ロードバランサー』は勿論、『CDN』を入れておくとか、対策をとっておかんとあかんやろが!申請する企業側は、命がかかってんねんやぞ」
「おお、さすがだ。日本を代表する企業のIT担当をしていただけのことはあるなあ。今は、ただの変態爺いだが」
「ワテのことなんかどうでもええねん。とにかく『づぼらや』をなんとかして助けてやらんかい」
「『づぼらや』だけではなく、全国で幾つも老舗が店を閉めてきているみたいだ。老舗だけではなく、沢山の店や会社が、倒産したり、廃業したりしているようだ」
「他は知らん。とにかく先ずは、『づぼらや』助けんかい!」
「『づぼらや』って、そんなにいい店なのか?」
「あそこの『てっちり』は天下一品や」
「君は、『づぼらや』の常連だったのか?」
「はあ?行ったことないで」
「ええ!?」
「大阪には人生で5回位しか行ったことないで。新世界も道頓堀もキタもミナミもどこにあるのか分からへん。阪神が優勝した時に馬鹿が飛び込む橋の場所も知らんで」
「な、なんだ!『ナンパ橋』も知らんのか!」




「梅田と新大阪の違いも分からへん」
「君は、行ったこともない店のことで怒ってるのか」
「あれ?梅田と大阪やったかいな」
「行ったこともない店のことどころか、大阪のことなんも知らないんだな。それでよく関西弁使っているな。まあ、相当に胡散臭い関西弁だが」
「ワテの言葉は関西弁とチャウで。『カーネーション弁』や。NHKの朝ドラ『カーネーション』で学んだ『カーネーション弁』や」
「君は、岸和田にも行ったことないだろ。ボクは、出張で、何回も行ったぞ」
「岸和田は、ワテの心の町なんやで。この心境は『カーネーション』を通しで三回観たワテしか分からへんで。あと半年もすればNHKオンデマンド見放題でまた観ちゃるんや。そのワテにとっては、岸和田だけやのうて、大阪全体が心の町なんや。その心の町の宝、『づぼらや』がのうなることは耐えられへんねん!」
「似非だが関西人を自負する君としては、許せないんだな」
「当たり前や。『プロの旅人』は、世界に発信しとるクオリティ・ブログやろ。ここで書くと世界を動かせるんやろ。アンサンから『プロの旅人』氏に頼んで、『づぼらや』救済について書いてもろうたら、CNNやBBCか取材に来て、世論も動くかもしれへん」
「いや、『プロの旅人』氏に頼めばいいだろ。君だって、『プロの旅人』氏の友人だろ?」
「『プロの旅人』氏は確かに、ワテとアンサンの共通の友人や。せけど、アンサンの方が、『プロの旅人』氏とは一心同体と云っていい程、親しいやないか。頼むでえ。せやないと…」
「ああ?...要するに『づぼらや』に行ったことはないんだな…ボクは眠いから、そろそろ切るぞ」

と、何故か、エヴァンジェリスト氏は、慌ててFaceTimeの終了ボタンを押した。


(おしまい)


2020年6月12日金曜日

【ビエール、まだまだ怒る!】何してんねん!?[前編]




「おいおい、一体、何してんねん!?」

エヴァンジェリスト氏のiPhone SEに、FaceTime(ビデオ通話)で連絡してきたビエール・トンミー氏が、またまた、またしても怒っている。

「なんだ?『多目的トイレ』のことで怒っているのか?」
「はあ?なんだ、『多目的トイレ』のことって?」
「グルメで有名な芸人が、『多目的トイレ』でアレをしたことさ」
「なんだ、アレって?」
「ほほー、得意のオトボケか。なるほど、君も『多目的トイレ』でアレをしたことがあるんだな。多目的だから、アレもしてもええんや、という理屈なんだろうが」
「おお、アレか。ああ、アレなら『多目的トイレ』でしたことはあるで」
「やはりそうだったか。変態の君なら、『多目的トイレ』でアレくらい当然しているだろう、と思っていた」
「まあ、変態でなくとも我慢でけん時は、『多目的トイレ』でもアレをするやろ」
アレって、『多目的トイレ』でどんな風にするんだ?」
「はああっ?!便器に座ってするに決まってるやないか!アンサンは、アレをする時、どうやってするねん?まさか、昔の日本人みたいなやつか。和式のように便器の淵に両足を乗っけてしゃがむのかいな?」




「ボクは、そもそも『多目的トイレ』でアレはしたことがないが、するとしたら、勿論、便器に座った形もあるだろうが、オムツ台を使うと壊れるだろうから、立ったままとか、まさかとは思うが、ビニール・シートを敷いてとか、かなとは思ったぞ。連れの女がどう思ったかは知らんが」!
「はああ!?アンサンの方が、よほど変態じゃないけ!そんなことしたら、ウンコが垂れ流しになるで!いやいや、それより何より、アンサンは女と一緒にウンコをすんのか?
「へ!?ウンコ?ああ、ウンコか…ボクは、いくら好きな女でも、女と一緒にウンコはしないぞ。まあ、シッコくらいならまだしも。しかし、変態の君なら、ウンコでも大丈夫だろ」
「んん?そのグルメで有名な芸人は、『多目的トイレ』で女と一緒にウンコをしたんか?」
「いやそうではないが。では、君は今度は何を怒っているんだ?」


(続く)


2020年5月8日金曜日

【アタシも怒るわよ!】マイナンバーカードがあれば、なんてえ![その5=最終回]







「ふん!そうはいかん!」

ビエール・トンミー氏は、それまで拳で打ってきたり、鳩尾にパンチを食らわしてきたり、アッパーカット打ってきたり、ついにはボディプレエスをしてきた妻に対して、今度は自分の方から身を寄せて行った。

「ええ..ええ?」

妻は、身を引いた。

「ボクは、政府を信用していない!」
「え?」
「マイナンバーカードなんて持つと、何があるか分からんのだ!」

夫の唾が、妻の頬に飛んだ。

「マイナンバーカード以前に、マイナンバーなんぞというもの自体、気に食わん!」

妻は、頬についた夫の唾を指に取り、舐めた。



「マイナンバーで国民の総ゆる情報を一元管理したいのだ。財産しかり、生体情報しかりだ。その手には乗らん!」

ビエール・トンミー氏は、虚空を凝視める。

「しかも、その情報が万が一、漏洩したらどうするのだ!公的書類を勝手に廃棄したり、廃棄したと云っていたのに、後から、ありました、なんてことを平気で云う奴らなのだぞ!」

と、その時、ビエール・トンミー氏は、頬に何か濡れたものを感じた。

「へ?」

妻の唇だった。

「んぐっ!」

妻は、唇を離すと、

「素敵!アータ、やっぱり素敵だわ!」
「へ!?」
「アタシも怒るわよ!マイナンバーカードがあれば、なんてえ!」
「んん?」
「アータは、そこまで考えて云ってたのね。『マイナンバーカードがあれば、かあ。くだらんなあ』って」
「ん、まあ、そう…」
「アータ、テレビに出るのよ。ワイドショーのコメンテーターになって」
「いや…」
「アータは、『エスエヌセーエフ』カードのことだって語れるし、視聴者にとって本当に必要なことを伝える能力があるのよ!」
「いや、『NFC』なんだけど…」
「イケメンだし、きっとスターになるわ」
「いや、もう『テイトー王』のようなことはこりごりだ」
「え?何、『テイトーオー』って?」

その時、リビングルームのテーブルに置かれたビエール・トンミー氏のiPhone X が鳴った。

「プププン、プププン」

iMessgeのホルンの着信音だ。

「う?...ううん、知らない。何だろう…」
「『テイトーなんとか』って云わなかった?」
「へ?...いや、トーテイ、スターになんかなれはしない、って云ったのさ」
「もう、アータったら!テ・レ・ヤさん!」

マダム・トンミーは、夫の顔を自分の方に向けると、両手で夫の頬を挟み、自らの唇を夫のそれに強く、強く、押し付けた。

「んぐっ!んぐっ!んぐっ!」

ビエール・トンミー氏のiPhone X には、友人のエヴァンジェリスト氏からのiMessageの通知が表示されていた。

「おい、友人。『テイトー王』で久しぶりに『サトミツ』の特集を..』


(おしまい)




2020年5月7日木曜日

【アタシも怒るわよ!】マイナンバーカードがあれば、なんてえ![その4]







「ええー!アータ、何、云ってるのお!?」

マダム・トンミーは、ソファで隣に座る夫に体当たりを食らわした。

「ううーっ!」

ビエール・トンミー氏は、ソファに仰向けに倒れ、そこに妻の体が覆いかぶさった。

「んぐっ!んぐっ!んぐっ!」

夫の胸を押し付ける妻の柔らかい『胸』が『凶器』となり、ビエール・トンミー氏の股間を若き日の『原宿の凶器』と化した。

「どういうことなの!ちゃんと説明して!」
「うう…うう…持ってないんだ…」

妻の体の重みと自らの股間の『異変』とで呻きながら、ビエール・トンミー氏は、説明を始めた。

「ボクは、マイナンバーカードを持っていないんだ」
「ええ?」

驚いた妻は、身を起こした。

「アータ、何云ってるの!アタシ、怒るわよ!」

もう怒っているではないか、とは思ったが、賢明な夫は、それを口にはしない。

「アータ、どうしてマイナンバーカードを持ってないのよお!?」
「マイナンバーカードなんて必要ないのさ」
「だって、皆、持ってるんじゃないの?
「いや、マイナンバーカードの普及率なんて14%くらいのもんなんだ」
「あら、そうなの?」
「まあ、エヴァの奴は、持ってるみたいだけどね」
「え?エヴァンジェリストさん、持ってるの?どうして?」
「アイツは、運転免許証を持ってないからだよ」
「どういうこと?」
「身分証明書として、マイナンバーカードを取得したんだ」



「あら、マイナンバーカードって身分証明書になるの?」
「お役所では勿論、有効だが、少し前までは、銀行や携帯電話会社なんかによっては、マイナンバーカードでは本人確認とはならなかったみたいだけど、今は大丈夫のようだ」
「じゃ、エヴァンジェリストさん、身分証明書を持てて便利ね」
「マイナンバーカードで、コンビニのマルチ・コピー機で住民票の交付もされて便利だとも云ってたなあ」
「だったら、アータもマイナンバーカード持てばいいじゃない!」

妻は、自分のその言葉が、夫の怒りに火をつけるとは思わなかった。


(続く)


2020年5月6日水曜日

【アタシも怒るわよ!】マイナンバーカードがあれば、なんてえ![その3]







「おーっと」

ビエール・トンミー氏は、ソファで隣に座る妻が放とうとしたアッパーカットを片手で防ぐ。

「んん、もう!」

妻は、顔を夫に顔に近づけ、鼻息を吹き付ける。

「んぐっ!んぐっ!んぐっ!」

夫は、妻の匂いに『反応』した股間を抑える。

「カードリーダーがないと、『給付金』のオンライン申請できないじゃないの!」

妻も分からないないなりに、『給付金』のオンライン申請の条件を理解してきていた。

「まあ、PCに繋げるカードリーダーはなくてもいいんだけどね」

股間に両手を置いたまま、ビエール・トンミー氏が説明する。

「えええ!どういうこと!?」

妻は、更に顔を夫に近づける。

「NFC機能を搭載したスマートフォンがあればいいんだ」
「え?『エスエヌセーエフ』?」
「いや、『SNCF』はフランス国鉄のことだ」




「ええ?ええ?フランス国鉄のスマートフォンがあればいいの?アータ、『エスエヌセーエフ』のこと詳しいから、持ってるんでしょ?」
「いやいや、フランス国鉄のスマートフォンなんてないさ。『NFC』さ」
「んん、もう!訳分かんないっ!要するに、アータは、それ持ってないのね?」
「持ってるよ。ボクにiPhoneは、iPhone X だから、NFC機能を搭載しているからね」
「なーんだあ!もう意地悪う!じゃあ、ウチもオンライン申請できるのね!」
「いや、できないんだ」


(続く)



2020年5月5日火曜日

【アタシも怒るわよ!】マイナンバーカードがあれば、なんてえ![その2]







「んぐっ!んぐっ!んぐっ!」

妻に拳で打たれたのに、ビーエル・トンミー氏は、嬉しかった。股間も素直に『反応』した。

「アータあ!何、悦んでるの!?」

妻は、今度は、ソファで隣に座る夫の太ももを抓った。

「痛っ!」
「アタシ、怒ってるのよ!」
「ごめん、説明が難しかったかなあ」
「違うの!なんだかよく分かんないけど、『給付金』のオンライン申請に、マイナンバーカードが必要だけど、でも、それだけじゃだめなんでしょ?」
「ああ、そうだよ。パソコンに繋げるカード・リーダーも必要なんだ。それでパソコン経由で、マイナンバーカードの情報をアップロードするんだ」
「じゃあ、カード・リーダーも必要って云えばいいじゃないの!」

妻は、今度は、右手に作った拳を、夫の鳩尾に突き込んだ。

「うっ!」
「巫山戯るんじゃないわ!」
「まあ、カード・リーダーが必要だと云っているニュースやワイドショーもなくはないし、ネットの情報でもそう書いてるものもなくはないけどね」
「でも、アタシ、そんなの聞いたことも見たこともないわ!」
「うーん、確かに、『マイナンバーカードがあればオンライン申請はできる』としか説明していないものが多いとは思う」
「でも、そんなの嘘じゃない!」
「だからあ、嘘ではないけど、情報が不十分だね」
「それって、嘘って云うの!」
「まあね…」
「で、アータ、カードリーダーって持ってるの?」
「いや、持ってない」
「えええ!じゃあ、オンライン申請できないじゃないの!」

妻は、今度は、左手に作った拳で、夫の顎を打ち上げようとする。





(続く)


2020年5月4日月曜日

【アタシも怒るわよ!】マイナンバーカードがあれば、なんてえ![その1]




「ふん…マイナンバーカードがあれば、かあ。くだらんなあ」

ビエール・トンミー氏は、怒ってはいなかった。

「ええ?違うの?」

ソファで隣に座りテレビを見る夫に、マダム・トンミーが、訊いた。

「まあ、嘘ではないけどなあ」

『給付金』のニュースを見ていた。

「申請するのは、申請書が送られてくるのを待たなくてもいいんでしょ、マイナンバーカードがあれば?」
「マイナンバーカードがあればオンライン申請はできるが、マイナンバーカードがあるだけではダメなんだよ」

夫は、顔をテレビから妻の方に向け、説明した。

「ええ?どういうこと?アタシ、分んないわ」

妻は、口を尖らせた。

「(んぐっ!可愛い!)」

妻は10歳下だが、もう55歳だ。しかし、表情に少女を見せることがある。


「どういうことなの?」
「マイナンバーカードは、それがあるだけでは、そこに記憶された情報をシステムに取込めないだろう?」
「どうして?」
「いや…どうして?ったってえ」

単純な質問程、厄介だ。

「だって、番号があればいいんでしょ?」
「あのね、番号は、つまり、マイナンバーは、もう皆に割り振られてるんだ。マイナンバーカードはなくてもね。君にだってマイナンバーの通知書が来ただろ」
「そうだったかしら?でも、カードは来てないわ」
「マイナンバーカードは、申請しないと発行されないんだ」
「どうして?」
「いや…どうして?ったってえ…ううん、どうしてだろう?」
「アータにもわからないことがあるのね。番号はあるのに、『給付金』の申請に、どうしてマイナンバーカードが必要なの」
「ああ、マイナンバーカードには、ただマイナンバーが入っているだけではなく、電子証明書が入ってるんだ。それで、そのマイナンバーの真正性が担保されるんだよ」
「ううん、もう!そんなの分かんないわよお!」

妻は、両腕を上げ、両手に拳を作って、戯れるように夫を打った。


(続く)


2020年5月3日日曜日

【ビエール、怒る!】その数字に何の意味があるっ!?[その6=最終回]






「なーに、アータ!?」

妻であった。ビエール・トンミー氏の手からiPhone X をひったくたのは、マダム・トンミーであった。

「へ?」

妻がソファの隣に座っていたことを忘れていた。

「ああ、エヴァンジェリストさんね」

マダム・トンミーは、夫のiPhone X のiMessageをスクロールする。

「『テイトー王』の時のように、って、どういうこと?」
「いやまあ、そのお…..,『住込み浪人』の頃、クイズ番組の『テイトー王』に出させられてえ….」



「『テイトー王』なら知ってるけど、アータ、出てたの?」

妻が、10歳年下なので、まだ『テイトー王』は見ていなかったのかもしれない。

「『サトミツ』って何?」
「まあそのお、『テイトー』の学生で『佐藤ミツ』って……」
「ああ、なんか聞いたことあるわ。才色兼備の女子大生で有名だった人でしょ」
「ああ、そうみたいだね」
「そうみたい、って、なんだかアータ、他人事ねえ。『サトミツ』知ってるんでしょ?会ってたんでしょ?」
「うーん…..そうだっかかなあ…」
「なんか怪しい!それに、『んぐっ!』って何?」
「いや、知らないなあ。何のことだろう?」
「アータ、『サトミツ』と『関係』があったの!?」
「いや、ない!ない、ない、ない!まだなかった!」
「え!まだ!?」
「ひゃっ!いや、違う!違うんだあ!」

と、叫んだ時、

「どうしたの?紅茶を入れたわ」

マダム・トンミーが、紅茶のポットとカップ&ソーサーを載せたトレイをリビングルームのテーブルに置いた。

「へ?」

ビエール・トンミー氏は、妻の声に眼を覚ました。

Fortnum & Mason(フォートナム&メイソン)のロイヤルブレンドよ」
「あ、あ、有難う…」
「『違う!違うんだあ!』って、どうしたの?夢を見てたのね」
「ああ、そうだと思う」
「テレビで『新型コロナウイルス』のニュースをしてたものね」
「ああ、そうだった」
「発表された感染者数が増えても減っても、本当に増えたのか、減ったのか分らないんでしょ?」
「ああ、その通りだ。…え!き、君はどうして….」

ソファ座ったマダム・トンミーは、隣に座る夫に不敵な笑みを向けた。

(おしまい)


2020年5月2日土曜日

【ビエール、怒る!】その数字に何の意味があるっ!?[その5]






「プププン、プププン」

リビングルームのテーブルに置かれたビエール・トンミー氏のiPhone X が鳴った。iMessgeのホルンの着信音だ。

「なんだ、なんだ」

ビエール・トンミー氏には、そのiMessageが友人のエヴァンジェリスト氏からのものであることは、iPhone X のロックを解除するまでももなく分っていた。iMessageのやり取りをしているのは、エヴァンジェリスト氏たっだ一人であったからだ。そして、その友人のメッセージの内容がどうせまたろくでもないことも分っていた。いつものことなのだ。

「ボクもそう思う」

エヴァンジェリスト氏のiMessageは、いきなりそう始っていた。

「ボクも、君がテレビのコメンテーターになったらいいと思う」

続くメッセージは、まるで、トンミー夫妻のやり取りを聞いていたかのようなものであった。

「君はどうしてボクたち夫婦の会話を知ってんねん?」

ビエール・トンミー氏は、いつもように関西弁で返信した。

「監視カメラさ」




「くだらんことを抜かすな!」
「とにかくボクも、君がテレビのコメンテーターになったらいいと思う」
「いやや、ワテは『高等遊民』やさかい、仕事なんかせえへん」





「またスターになれるぞ」
「またやて?」
「ああ、まただ。『テイトー王』の時のようにな」
「ええ!『テイトー王』の時のように、やてえ!」
「そうだ。『サトミツ』がまた、君に『んぐっ!』しちゃうぞ」




「ええ!『サトミツ』が!んぐっ!

と、その時、ビエール・トンミー氏の手からiPhone X がひったくられた。


(続く)



2020年5月1日金曜日

【ビエール、怒る!】その数字に何の意味があるっ!?[その4]






「アータ、それだけの頭脳があるんだから」

と、マダム・トンミーは、ソファーの隣に座る夫の脚を撫でながら、提案した。

「テレビのコメンテーターになったらいいと思うの」

思わぬ妻の言葉に、ビエール・トンミー氏は、手に持つROYAL ALBERT(ロイヤルアルバート)の ポルカ・ブルーのティー・カップを揺らしてしまい、紅茶を少し、股間にこぼしてしまった。

「あっ!」
「アータったら」

と、妻は夫の股間をティッシュで拭いた。

「んぐっ!」
「あら!んもう!」

妻は頬を紅に染めた。

「私、本当に思うの。アータ、さすが天下のハンカチ大学の商学部卒だわ。フランス語経済学でも『優』をとったんでしょう」

妻の理解は、結果的事実としては間違ってはいなかったが、ビエール・トンミー氏は、敢えてその実態を明かすことはしない。エヴァンジェリスト氏のお陰だなんて知られたくはなかった。




「『SNCF』のことも詳しいのよねえ。それに、統計や財務分析のことまで詳しいなんて!銀行の融資のことまで語れるのねえ!ただの年金生活老人のままでいるなんて、もったいないわ」

ハンカチ大学の商学部で、統計や財務分析、銀行の融資を学んだ訳ではなく(学んだかもしれないが、全く覚えていない)、その知識も……..しかし、妻の誤解をそのままにしておく。

「だから、私、アータは、テレビのコメンテーターになったらいいと思うの。今のコメンテーターの人たちって薄っぺらいんだもの。アータの方が、ずっと博識で鋭いわ!

マダム・トンミーは、ソファーの隣に座る夫の脚を両手で揺すった。





「いやあ、ボクは『高等遊民』だから、仕事なんかしないさあ」

と、ビエール・トンミー氏が余裕を見せた時であった。


(続く)