「なーに、アータ!?」
妻であった。ビエール・トンミー氏の手からiPhone X をひったくたのは、マダム・トンミーであった。
「へ?」
妻がソファの隣に座っていたことを忘れていた。
「ああ、エヴァンジェリストさんね」
マダム・トンミーは、夫のiPhone X のiMessageをスクロールする。
「『テイトー王』の時のように、って、どういうこと?」
「いやまあ、そのお…..,『住込み浪人』の頃、クイズ番組の『テイトー王』に出させられてえ….」
「『テイトー王』なら知ってるけど、アータ、出てたの?」
妻が、10歳年下なので、まだ『テイトー王』は見ていなかったのかもしれない。
「『サトミツ』って何?」
「まあそのお、『テイトー』の学生で『佐藤ミツ』って……」
「ああ、なんか聞いたことあるわ。才色兼備の女子大生で有名だった人でしょ」
「ああ、そうみたいだね」
「そうみたい、って、なんだかアータ、他人事ねえ。『サトミツ』知ってるんでしょ?会ってたんでしょ?」
「うーん…..そうだっかかなあ…」
「なんか怪しい!それに、『んぐっ!』って何?」
「いや、知らないなあ。何のことだろう?」
「アータ、『サトミツ』と『関係』があったの!?」
「いや、ない!ない、ない、ない!まだなかった!」
「え!まだ!?」
「ひゃっ!いや、違う!違うんだあ!」
と、叫んだ時、
「どうしたの?紅茶を入れたわ」
マダム・トンミーが、紅茶のポットとカップ&ソーサーを載せたトレイをリビングルームのテーブルに置いた。
「へ?」
ビエール・トンミー氏は、妻の声に眼を覚ました。
「Fortnum & Mason(フォートナム&メイソン)のロイヤルブレンドよ」
「あ、あ、有難う…」
「『違う!違うんだあ!』って、どうしたの?夢を見てたのね」
「ああ、そうだと思う」
「テレビで『新型コロナウイルス』のニュースをしてたものね」
「ああ、そうだった」
「発表された感染者数が増えても減っても、本当に増えたのか、減ったのか分らないんでしょ?」
「ああ、その通りだ。…え!き、君はどうして….」
ソファ座ったマダム・トンミーは、隣に座る夫に不敵な笑みを向けた。
(おしまい)
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