(治療の旅【江ノ島/鎌倉・編】[その14]の続き)
「ふん!あの門は、くぐらないぞ」
ビエール・トンミー氏がどうして怒り口調であるのか、エヴァンジェリスト氏は分らなかった。
「え?江島神社には行かないのか?」
江島神社の桜門である瑞心門について、竜宮城を模して造ったと云われている、という友人の説明にケチをつけたことで怒らせたか、と気になった。
「ふん!これだから、素人は困るっ」
ビエール・トンミー氏は、友人の方に顔を向けることもなく、吐き捨てるように云った。
「江ノ島と云えば、『エスカー』だろ。知らんのか、『エスカー』を?!」
自らの無知を誤魔化すように、エヴァンジェリスト氏は、こう返した。
「んん?なんだ?『エスパー』か?」
「江ノ島に『エスパー』がいると思うか?」
「いないのか?」
「質問に質問で返すな!『エスカー』だ。エスカレーターだ」
「はあ?エスカレーター?エスカレーターが、江ノ島では有名なのか?エスカレーターなんて、駅にもデパートにもあるぞ」
「ただのエスカレーターではないんだ。有料なんだぞ」
「有料?有料のエスカレーター?」
「ああ、有料のエスカレーターだ」
「エスカレーターに乗るのに金を払うのか?だから、『ただ』のエスカレーターではないのか?」
エヴァンジェリスト氏は、「有料」とか、「〇〇円」とか、とにかくお金がかかることに敏感だ。60歳で再雇用となって、悲惨な給料になっていた。生活苦なのだ。
「有料だ。でもな、階段で登ると、きつくて大変なんだぞ。『エスカー』は、3区間に分かれてるが、頂上までなら360円だ」
「うっ……360円か」
一瞬立ち止り、エヴァンジェリスト氏は、頭の中で計算をした。
「(9杯分だ)」
会社の車内に設置してある自動販売機のコーヒーは、一杯40円だった。360円は、その9杯分にもなるのだ。週5日勤務だから、およそ2週間分だ。
(続く)
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