(治療の旅【江ノ島/鎌倉・編】[その16]の続き)
「どうだ、いいだろう!」
エスカーに乗ると、ビエール・トンミー氏は振り向き、自慢げな顔をエヴァンジェリスト氏に見せた。
「下りはないのか?」
エヴァンジェリスト氏は、素朴な疑問を呈した。
「ない。だから、『エスカレーター』という言葉の前半をとって『エスカー』だ」
と解説した瞬間、友人の顔が『みさを』に見えた。『みさを』にも、この『エスカー』に乗り、同じ説明をしたのだ。
「違う!」
思わず叫んでいた。
「え?違うの?上りしかないから、『エスカレーター』という言葉の前半をとって『エスカー』じゃないのか?」
「むっ…いや、エスカレーターは、フランス語で何だったかな?エスカレーターではないよな?違うよな?」
額を少し汗ばませながら、ビエール.トンミー氏は、フランス文学修士の友人に訊いた。
「ああ、それで、違う、なのか。『escalier roulant』だ。まあ、『roulant』、つまり、転がると云うか、回ると云うか、その『escalier』、つまり階段ということだな」
「おお、さすが、天下のOK牧場大学大学院修士課程修了だけのことはあるなあ」
という友人の褒め言葉に、エヴァンジェリスト氏は、『エスカー』に乗ったまま項垂れた。
(続く)
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