「ふん!そうはいかん!」
ビエール・トンミー氏は、それまで拳で打ってきたり、鳩尾にパンチを食らわしてきたり、アッパーカット打ってきたり、ついにはボディプレエスをしてきた妻に対して、今度は自分の方から身を寄せて行った。
「ええ..ええ?」
妻は、身を引いた。
「ボクは、政府を信用していない!」
「え?」
「マイナンバーカードなんて持つと、何があるか分からんのだ!」
夫の唾が、妻の頬に飛んだ。
「マイナンバーカード以前に、マイナンバーなんぞというもの自体、気に食わん!」
妻は、頬についた夫の唾を指に取り、舐めた。
「マイナンバーで国民の総ゆる情報を一元管理したいのだ。財産しかり、生体情報しかりだ。その手には乗らん!」
ビエール・トンミー氏は、虚空を凝視める。
「しかも、その情報が万が一、漏洩したらどうするのだ!公的書類を勝手に廃棄したり、廃棄したと云っていたのに、後から、ありました、なんてことを平気で云う奴らなのだぞ!」
と、その時、ビエール・トンミー氏は、頬に何か濡れたものを感じた。
「へ?」
妻の唇だった。
「んぐっ!」
妻は、唇を離すと、
「素敵!アータ、やっぱり素敵だわ!」
「へ!?」
「アタシも怒るわよ!マイナンバーカードがあれば、なんてえ!」
「んん?」
「アータは、そこまで考えて云ってたのね。『マイナンバーカードがあれば、かあ。くだらんなあ』って」
「ん、まあ、そう…」
「アータ、テレビに出るのよ。ワイドショーのコメンテーターになって」
「いや…」
「アータは、『エスエヌセーエフ』カードのことだって語れるし、視聴者にとって本当に必要なことを伝える能力があるのよ!」
「いや、『NFC』なんだけど…」
「イケメンだし、きっとスターになるわ」
「いや、もう『テイトー王』のようなことはこりごりだ」
「え?何、『テイトーオー』って?」
その時、リビングルームのテーブルに置かれたビエール・トンミー氏のiPhone X が鳴った。
「プププン、プププン」
iMessgeのホルンの着信音だ。
「う?...ううん、知らない。何だろう…」
「『テイトーなんとか』って云わなかった?」
「へ?...いや、トーテイ、スターになんかなれはしない、って云ったのさ」
「もう、アータったら!テ・レ・ヤさん!」
マダム・トンミーは、夫の顔を自分の方に向けると、両手で夫の頬を挟み、自らの唇を夫のそれに強く、強く、押し付けた。
「んぐっ!んぐっ!んぐっ!」
ビエール・トンミー氏のiPhone X には、友人のエヴァンジェリスト氏からのiMessageの通知が表示されていた。
「おい、友人。『テイトー王』で久しぶりに『サトミツ』の特集を..』
(おしまい)
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