(治療の旅【江ノ島/鎌倉・編】[その21]の続き)
「おいおい、『病人』の質問は無視か?」
エヴァンジェリスト氏は、江ノ島の『邊津宮』を背に進む友人に、不満の言葉を投げた。京都にも江ノ島にもある『八坂神社』について質問したのに、友人は振返りもせず、沈黙していたのだ。
「ああ、『八坂神社』ねえ」
ビエール・トンミー氏は、前方を向いたまま、取り敢えず、反応だけは返した。
「(『みさを』…)」
両手でぶら下がるようにされた時の腕の感覚が蘇っていた。
「京都の八坂神社には何回か行ったことがあるんだ。出張した時に、男の同僚とだけどな」
エヴァンジェリスト氏は、『八坂神社』に拘った。
二十数年、47都道府県を出張しまくったが、当然ではあるが、常に仕事で、出張先で観光することは、殆どなかった。しかし、観光という程のものではなかったが、京都の八坂神社には出張先訪問のついでに幾度か行ったことがあり、馴染みのようなものを感じていたのだ。
京都の出張訪問先の会社は、四条通りにあり、『八坂神社』はそう遠くはなかった。四条通りを河原町方面に行き、河原町を越え、更に、四条大橋を越えていくと、祇園があり、その突き当たりが、『八坂神社』であった。
「ああ、そうだ。京都のお客様向けの見積を準備していたんだった。まだ修正中だったんだけど…」
エヴァンジェリスト氏は、前週までしていた仕事を思い出した。
「おい!止めろ!」
ビエール・トンミー氏が、振返り、怒鳴った。
「それだからダメなんだ!仕事のことは忘れろ。『病人』、行くぞ」
と、ビエール・トンミー氏は、再び、『邊津宮』を背にして歩き出した。後を追ったエヴァンジェリスト氏が、友人の先に見えた小さな建物を見て云った。
「なんだ、それは?公衆便所か?」
「ばっかもん!このお罰当たりめがあ!あれは、『エスカー』の第2区間の乗り場だ」
しかし…………
(続く)
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