(治療の旅【江ノ島/鎌倉・編】[その8]の続き)
「『みさを』…」
エヴァンジェリスト氏には、友人が何かを云ったように思えた。
「え?何?」
片瀬江ノ島駅前で立ち止まり、空を見上げたままでいたビエール・トンミー氏は、エヴァンジェリスト氏が一緒であることを思い出した。
「今、『みさ』って云った?」
「んん?...ああ、『さあ!』って云ったのさ。さあ、行こうか」
と云うと、ビエール・トンミー氏は、駅を背にして右手に向かい始めた。
「昔ね、女房と来て以来かなあ?」
エヴァンジェリスト氏は、妻との初デートで鎌倉、江ノ島に来たと記憶していた。しかし、妻(当時はまだ結婚前であったので恋人であったが)の手をどうやって握るか、そして、その先どうするか、といったことしか考えておらず、鎌倉、江ノ島のどこに行って何をしたかの記憶は余りない。
「ふううん」
ビエール・トンミー氏は、気のない返事をした。エヴァンジェリスト氏は友人ではあるが、その男の恋路には興味はない。
「(江ノ島、鎌倉は、ボクの『定番』だった)」
江ノ島に向って歩きながら、ビエール・トンミー氏は、幾人もの女性を思い出していた。
「(付き合った女とは殆ど、ここに来たものだ)」
ビエール・トンミー氏は、色男であった。小学生の頃から、『琴芝のジェームズ・ボンド』と噂れる程の美貌であったのだ。琴芝は、ビエール・トンミー氏が小学生の頃、住んでいた山口県宇部市の町である。
「(『みさを』とも来た……彼女も…)」
(続く)
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