「アータ、それだけの頭脳があるんだから」
と、マダム・トンミーは、ソファーの隣に座る夫の脚を撫でながら、提案した。
「テレビのコメンテーターになったらいいと思うの」
思わぬ妻の言葉に、ビエール・トンミー氏は、手に持つROYAL ALBERT(ロイヤルアルバート)の ポルカ・ブルーのティー・カップを揺らしてしまい、紅茶を少し、股間にこぼしてしまった。
「あっ!」
「アータったら」
と、妻は夫の股間をティッシュで拭いた。
「んぐっ!」
「あら!んもう!」
妻は頬を紅に染めた。
「私、本当に思うの。アータ、さすが天下のハンカチ大学の商学部卒だわ。フランス語経済学でも『優』をとったんでしょう」
妻の理解は、結果的事実としては間違ってはいなかったが、ビエール・トンミー氏は、敢えてその実態を明かすことはしない。エヴァンジェリスト氏のお陰だなんて知られたくはなかった。
「『SNCF』のことも詳しいのよねえ。それに、統計や財務分析のことまで詳しいなんて!銀行の融資のことまで語れるのねえ!ただの年金生活老人のままでいるなんて、もったいないわ」
ハンカチ大学の商学部で、統計や財務分析、銀行の融資を学んだ訳ではなく(学んだかもしれないが、全く覚えていない)、その知識も……..しかし、妻の誤解をそのままにしておく。
「だから、私、アータは、テレビのコメンテーターになったらいいと思うの。今のコメンテーターの人たちって薄っぺらいんだもの。アータの方が、ずっと博識で鋭いわ!」
マダム・トンミーは、ソファーの隣に座る夫の脚を両手で揺すった。
「いやあ、ボクは『高等遊民』だから、仕事なんかしないさあ」
と、ビエール・トンミー氏が余裕を見せた時であった。
(続く)
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