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2017年3月21日火曜日

ファット・ペンギン【ハンサムのなれの果て】





「当時、エヴァンジェリストさんを見て、『なんとハンサムな人なんだろう』と思ったんですよ」

くどい!.....あああ、くどい!くどい!

「当時、エヴァンジェリストさんを見て、『なんとハンサムな人なんだろう』と思ったんですよ」

『忍者』はこの言葉を繰り返したのだ。

「当時、エヴァンジェリストさんを見て、『なんとハンサムな人なんだろう』と思ったんですよ」

法要で住職が、若き日のエヴァンジェリスト氏について語った言葉を『忍者』は繰り返したのだ。

「当時、エヴァンジェリストさんを見て、『なんとハンサムな人なんだろう』と思ったんですよ」

ちっ。デリカシーのない部下(『忍者』)に、ビエール・トンミー氏は舌打ちした。

エヴァの奴が、若い頃にハンサムであったことは、自分が一番よく知っている。高校一年からの友達だからだ。

しかし、自慢するわけではないが、自分も相当にハンサムであったのだ。いや、エヴァよりもずっとハンサムであったのだ。なのに、『忍者』の奴ったら…..

高校生の頃、校庭を歩く女子生徒たちは自分を見て、「ねええ、あの方って、とても素敵でなくって」と云っていたのだ。

「ねええ、あの方って、とても素敵でなくって」とちゃんと聞こえた訳ではないが、彼女たちの口の動きからそう云っているに違いないことは十分に察することはできたのだ。



そんな想いに口の端を歪め、『忍者』が側に控えたままいたことも忘れていたビエール・トンミー氏に、『忍者』が声をかけた。

「しかし、あの方はもう見る影もありませぬ」

ううん?

「つい先日のことです、東京は府中市の大國魂神社にこんなペンギンがおりました」



云うまでもない。それは、変り果てたエヴァンジェリスト氏の今の姿であった。

「これは、ファースト・ペンギンならぬファット・ペンギンです」

そうか、娘の結婚式だったんだな。それにしても、『忍者』の奴、ファースト・ペンギンならぬファット・ペンギンとは、上手いことを言いおる。

自らの老醜を忘れ、男は満悦の表情を浮かべた。








2017年3月17日金曜日

衝撃の法話【住職は告白する】




2017年3月11日は、エヴァンジェリスト氏の母親の十三回忌、父親の三回忌の法要であった。

法要は、広島市内のお寺で執り行われた。

母親の命日は、3月XX日、父親の命日は、4月X日であったが、東京に住むエヴァンジェリスト氏が二度、帰広せずとも済むよう、まとめて法要が行われたのである。

参列したのは、諸般の事情から、エヴァンジェリスト氏とその次兄夫婦の3人であった。

いや、法要のあった本堂の襖の背後に、もう一人、参列はしていないが、こっそり法要の様子を伺う存在があった…….




黒ずくめの男であった。

しかし、喪服を着た男というよりも、忍者といった方が相応しい黒ずくめの男であった。顔も頬までヒゲに覆われ(実際のところは、頬は覆面の下にあり確認はできなかったが)、暗黒の中に目だけが怪しい輝きを放っていた。

「ビエール様、お任せ下さい」

『忍者』は、誰にも聞こえぬ程の小声で呟いた。

お経をあげてくれた住職の法話は、なかなかに興味深いものであった。

「ビエール様が私を遣わせになられたのは、このことであったのか」

『忍者』は、『主人』ビエール・トンミー氏の慧眼に敬服した。

住職は、『他力本願』や『悪人正機』について語っていた。そのお寺は、浄土真宗であった。

それはそう、どこか、遠藤周作の云う『母なる神』に通じるところが感じられた。

「ビエール様は、エヴァンジェリスト氏がただ法要の為に広島に帰ったのではない、と踏まれたのだ」

ビエール・トンミー氏は、スコセッシ監督の映画『沈黙』で、遠藤周作の心を知った。そして、エヴァンジェリスト氏が…….フランス文學界の最高峰のOK牧場大学大学院の修士であり、遠藤周作やフランソワ・モーリアック、グレアム・グリーンを通してカトリック文学の権威とも云えるその友が、仏教の法要で何かを感じようとしているのではないか、と考えられたのだ。

そして、『忍者』は『主人』ビエール・トンミー氏の読み通りであったことを確認したのである。

そう、エヴァンジェリスト氏の呟きを『忍者』は聞き逃さなかったのだ。

「『原罪』か…」

その言葉が総てを表していた。

やはり、エヴァンジェリスト氏は、親鸞、浄土真宗とキリスト教との類似性に想いを馳せていたのだ。

「遠藤さん…」

その名前を発したことが決定的な証左となった。

「ビエール様。ご主人様の予見通りでした」

『忍者』は、そう『主人』ビエール・トンミー氏に報告せねば、と思った。

その時であった。

その時、『忍者』は、信じられない言葉を耳にしたのである。

「当時、エヴァンジェリストさんを見て、『なんとハンサムな人なんだろう』と思ったんですよ」

『主人』の眼力に驚いている内に、法話は進んでいたようであった。いや、法話は既に終り、法話後の雑談となっていたのかもしれない。

住職は確かにそう云ったのだ。

「当時、エヴァンジェリストさんを見て、『なんとハンサムな人なんだろう』と思ったんですよ」

住職は、エヴァンジェリスト氏の知り合いである(エヴァンジェリスト氏の10歳年下だ)。

前の住職(現在の住職のお父様)が、エヴァンジェリスト氏の母親がとても親しくしていた人で、エヴァンジェリスト氏自身は覚えていなかったが、40年余り前、エヴァンジェリスト氏は今の住職(当時は小学生)を映画に連れて行く等して遊んであげたらしい。

その時、小学生の『住職』は思った、ということであるらしかった。

「当時、エヴァンジェリストさんを見て、『なんとハンサムな人なんだろう』と思ったんですよ」

住職は、幼少の頃、憧れの歳上の女性に抱いた想いを告白するように、そう云ったのだ

「当時、エヴァンジェリストさんを見て、『なんとハンサムな人なんだろう』と思ったんですよ」

住職の衝撃の『告白』に、『忍者』は混乱した。

『主人』ビエール・トンミー氏に何を報告すべきであるのか。

親鸞、浄土真宗とキリスト教との類似性を想うエヴァンジェリスト氏のことであるべきなのか、或いは、『なんとハンサムな人なんだろう』という住職の、正直過ぎる、衝撃過ぎる告白であるべきなのか……..







2017年2月15日水曜日

「あなたは『教祖』なのか?」【週刊聞醜・緊急質問状】



「アータ、変な郵便が来てたわよ」

帰宅した男は、夕飯の準備をする夫人に台所からそう声をかけられた。

「怪しいDMかしらねえ」

男が着ているのは、パジャマのようにも見えた。しかし、帰宅したばかりで着替えていないはずなのだから、パジャマではないのかもしれない。

男は、食卓に置かれた郵便を手に取った。

「ビエール・トンミー様」と書かれた封書であった。

確かに、自分宛の郵便であることを確認すると、封書を裏返した。

差出人は、「週刊聞醜」とあった。

週刊聞醜?週刊誌か?なんと読むのだ?『しゅうかん・もんしゅう』?いや、『しゅうかん・ぶんしゅう』か…

『醜聞』をひっくり返したのか?怪しい。『しゅうかん・ぶんしゅう』って、まるで『しゅうかん・ぶん….』みたいだ。ますます怪しい。

恐る恐る封を開けた。

中には紙が1枚入っていた。送付状も何もなく、ただ、入っていたのは、次のものであった。


         ===========================


        『週刊聞醜・緊急質問状』


ビエール・トンミー氏に訊く。以下の質問に正直に答えよ。回答は、同封の封筒に入れ、返送せよ(切手代は自分で持て)。


質問1
=====
あなたが、宗教団体「変態の科学」を創設したことは事実であるか?


質問2
=====
あなたは『教祖』なのか?或いは、『総裁』なのか?もしくは、『会長』なのか?それとも『グル』か?


質問3
=====
「変態の科学」の本尊は、『エロ・ヘンタイーレ』であるのか?


質問4
=====
あなたが宗教への道を歩み始めたのは、スコセッシ監督の映画「沈黙』を見て、感動したからなのか?


質問5
=====
スコセッシ監督の映画「沈黙』を見た後、「沈黙」を見て抱いた以下の疑問を、友人でありフランソワ・モーリアックの研究で有名なカトリック文學者であるエヴァンジェリスト氏に呈したのは、「変態の科学」の教理を創る為であったのか?



     ----------------------


沈黙を見ました。

感想は「感動した」では安っぽいし「面白かった」ではもちろんない。「映画館を出ても余韻が消えない」とでも表現すればいいのでしょうか。

 江戸時代初期の日本のキリスト教弾圧をテーマにした3時間近くの映画を見てくださいとは人に勧めにくいし、娯楽作品としての魅力はほとんど無かったけどこの映画は是非とも見る映画だったと思いました。

最後のエンドロールがずっと波の音だったから気づきましたが、この映画には音楽が無い。虫の声なとの自然の音ばかり。ここで「さあ感動しろ」などと音楽が場面を盛り上げていたら興醒めだったでしょう。

他のハリウッドが馬鹿らしく思えました

よく分からなかった点がいくつかあります。今から列挙します。

フランス文學界の最高峰のOK牧場大学大学院の修士にて遠藤周作の権威はどう考えますか。



(1)キチジロウは棄教を続けながら何故ロドリゴに付きまとって懺悔を続けるのか。 

(2)ロドリゴが信者のために棄教したのはカトリックの考えでは正しいのか。

(3)ロドリゴが踏み絵を踏む時、キリストの「踏むがいい。私は踏まれるために生まれて来た」という言葉を聞くけれど、これでは神に従ったので棄教と言えないのではないか。

(4)ロドリゴはその時心の中で本当に棄教したのか。

(5)映画ではロドリゴは棄教した生活をしていたが最後の火葬のシーンで十字架を握っていて本当は棄教していない事を暗示していた。これは説明的過ぎないか。原作もそうなのか

(6)本来多神教でかつ仏教徒の日本人がカトリックの絶対的な神と個人が向き合う考えを何故受け入れたのか。踏み絵を頑なに拒んで殉教するのは欧米の映画では自然に受け入れられるが日本の農民だと違和感を感じる。

(7)隠れキリシタンは本当のカトリック教徒だったのか。天国に行くのと極楽に行くのはどう違うと考えていたのか。フェレイラは日本人が敬っているのは「大日様」だど言っていた。

     ----------------------



質問6
=====
怪人2号が「変態の科学」への出家を望み、怪鹿が入信を申し出ているのは、あなたの差し金か?「変態の科学」の関連会社として芸能事務所も設立しようとしているからなのか?怪人2号は、ショーンKに似ていると云われているし、怪鹿は人間鹿という他に類を見ない存在であり、共にスター性がある為、設立する芸能事務所の所属タレントにするつもりなのではないのか?



以上、さあ答えよ!


         ===========================




手が震えた。

それは、「以上、さあ答えよ!」という物のいいように対する怒りであったのか………いや、それは恐怖であったのかもしれない。

「ど、ど、どうして知っているのだ…..エヴァにした質問を何故、知っているのだ」

こんな怪しい質問状なんて無視すればいいのだが、答えなればどうなるのか………

ビエール・トンミー氏は、鼻歌まじりで料理をする夫人に動揺を悟られないよう、台所に背を向けたまま自分に部屋に入って行った。







2017年2月12日日曜日

『出家します』【変態の科学】



「アイツは一体、どうしたのだ。会社で何かあったのか?会社で何か辛いことでもあるのか?」

ビエール・トンミー氏は、エヴァンジェリスト氏に問うた。

「アイツは、君の会社の同僚だろう」
「アイツ?」
「そう、この男だ」

ビエール・トンミー氏は、エヴァンジェリスト氏に一枚の写真を見せた。



「誰だ。この男は?」
「一般には『怪人2号』と云われている」
「『怪人2号』?」
「しかし、その正体は君の会社の同僚であることはワシには分っている」
「ド,ド,ドルトか?」
「そうだ、アイツだ。香水で分った」
『BVLGARI pour homme』か?


「臭くてたまらなかった!」
「ドルトが『怪人2号』であったのか」
「そんなことはとうに分っていたではないか」


「ドルトがどうしたというのだ?」
「『出家させて下さい』と云ってきたのだ」
「『出家』?意味が分からん。君が宗教団体でも主宰している訳でもないのに」
「ワシも驚いた。しかし、奴は云うのだ『変態の科学に出家します』、と」




「『変態の科学』?君はいつの間にそんなものを始めていたのだ」
「いや、知らん、知らん。ワシはそんなものをまだ始めてはおらん
「まだ?....そうか、君は『変態道』を極め、ついに『変態の科学』なる宗教を興そうとしていたのか!」
「ウッ。知らん、知らん」
「最近、スコセッシの『沈黙』に影響され、宗教に関心を示していたと思ったら….」
「知らん、知らん、事務所を通してくれ!」










2017年1月31日火曜日

トルーマンはロドリゴなのか?【怪人たちも、復活?】




「トルーマンはロドリゴなのか?」

訳の分らないことを云う老人だ。

「トルーマンって、アメリカの大統領ですか、終戦の時の?」

中年の男は、トルーマンのことは知っているらしい。その居酒屋のカウンターでたまたま老人の隣に座っただけであったが、老人の呟きに思わず反応したようだ。

「エヴァの奴、さすがにカトリック文學を学んだだけのことはある」
「ロドリゴって何ですか?」
「君は、スコセッシの『沈黙』はまだ見ていないのか?」
「スコセッシ?」
「スコセッシも知らぬのなら話にならん!」
「トルーマンは知ってます」
「どうせ、広島、長崎に原爆を落とさせた大統領とでも思っているのであろう」
「えっ?違うんですか?」
「トルーマンは、女性や子供が標的とならぬようにと云い、対象とするには軍備施設に限る、としたという」
「そうなのですか?」
「しかし、原爆の最大効果を測ることに執着したグローブス准将は、投下目標都市として出した「京都」をトルーマンの部下で陸軍長官であるスティムソンに却下されると、広島を候補に挙げたんだそうだ。そして、『最初の原爆を広島、小倉、新潟、長崎のうちのひとつに投下せよ。2発目以降は準備ができ次第投下せよ』という原爆投下指令書が発令された、ということらしい」
「ってことは、元々の気持ちはともかくトルーマンが広島への原爆投下を命令したのでしょ?」
「いや、原爆投下指令書をトルーマンが承認した事実を示す記録は見つかっていないんだそうだ」
「ま、ま、まさか。......ということは、文民統制もなく、軍が勝手に、ということなのですか?」
「実際のところは知らぬが、トルーマンは何も決断しなかった、とも思われているようだ。まあ、文民統制なんて云ってもな」
「でも、アメリカ国民の多くは、原爆投下は多くの人を救う為に必要なことだったと思っているのでしょ?」
「トルーマン自身、その主旨の発言をしている。いや、むしろ、そこからアメリカ国民の多くが持つ原爆投下の必要性認識が生まれたのではないかと思われるようだ」
「だったら、やはり命令したのではないですか?」
「いや、トルーマンは、原爆投下後の広島の惨状を示す写真を見せられ、当初、『こんな破壊行為をした責任は大統領の私にある』と云ったのだそうだ。手紙に「後悔(regret)」したとも書いてあるようだ」
「では、何故、もう一方で、原爆投下の正当性を云ったのですか?」
「そこそこ、そこなのじゃ、エヴァンジェリストが云っておるのは」
「はあ?」
「NHKのBS1スペシャル『原爆投下 知られざる作戦を追う』を見たエヴァンジェリストは、わしに訊いてきたのだ。トルーマンはロドリゴなのか?と」
「意味が分りません。だ、か、ら、何なのですか、ロドリゴって」
「ロドリゴは、『沈黙』の中で踏み絵を踏む、つまり、『転ぶ』宣教師だ。しかし、彼は、神を棄てられぬのだ。いや、神がロドリゴを見棄てないのかもしれぬ。その表現の方が、原作者である遠藤周作の意図するところのものであるのかもしれない」
「うーむ、トルーマンは、ロドリゴのように、自身の信じるところのものを捨て、原爆投下の正当性を主張するになったものの、心の中では、彼自身も気付かないかもしれぬ心の奥底には、自身の信じるもの、いや、信じていたものが残っており、それを封印したことにより、責め苛まれていたのではないか、ということなのでしょうか?」
「き、君は一体、何者なのだ!先程までは、何も知らぬふりをしておったが、そこまでの解析ができるということは、只者ではないな」
「いえ、只者ですよ」
「んん?君、どこかで見かけたことがあるな」
「いえ、お会いしたことはありません」
「その黒眼鏡が怪しい」
「いえ、近眼なので。少し老眼も入ってきましたが」
「わしを誤魔化すことはできんぞ。夜に黒眼鏡はなかろう、なあ、怪人2号よ!
「むむ!あなたこそ、怪人1号でしょうが!」
「いや、わしはただのエロ爺だ」
「そう、エロ爺にして怪人1号、そう、ビエール・トンミー氏だな!
「いや、どこにもいるエロ爺だ」
「貴方の発言は総て記録させてもらいましたよ、ハッハッハッハ!」
「なぬ、記録だと!
「日米の国際問題になるかもしれませんよ、それが嫌だったら….」
「き、き、き、貴様あ!.....むむ、その胸ポケットに刺さった白いペンは何だ?
「ハッハッハッハ!もう、遅い!貴方にはそろそろ『怪人』を引退していただきましょうか。ハッハッハッハ!」





怪人2号と思しき中年男の高笑いに、ビエール・トンミー氏の眼は異様な動きを示した








2015年7月19日日曜日

【終焉】さらば、スナイパー!さらば、怪人たちよ!




「アオニヨシよ、さすがだな。益田市の柿本神社の階段で鍛えた足は伊達ではなかったな」

人間鹿こと、アオニヨシ君は、エヴァンジェリスト氏の命を受け、ビエール・トンミー氏を窮地から救ったのであった。

全身黒っぽい服を着た若い女性に、渋谷丸山町のソコに連れ込まれようとしていたところを救ったのだ。


全身黒っぽい服を着た若い女性の魔力に射抜かれ、「意識」を失っていたビエール・トンミー氏を我に返らせたのであった。

「鹿し、ボクは何をしたのですか?」

エヴァンジェリスト氏に訊いた。そう、アオニヨシ君は、自分が何をしたのか理解してはいなかったのだ。

「アレは何だったのですか?渋谷丸山町のソコの入り口にボクが取付けたものは」
「ああ、あれか。まあ、一種のプラズマ・アクチュエータのようなもの、と思っておればいいであろう」
「プラズマ・アク、アク….」
「アクチュエータだ。プラズマ・アクチュエータも知らんのか、理系大学出身のくせに。最近までJAXAにいらした藤井孝蔵先生の研究で有名ではないか」
「で、そのプラズマ・アクチュエータは何をするのですか?」
「風をコントロールできるのだ。今回のプラズマ・アクチュエータのようなものでは、試しに人をコントロールさせてみたが、上手くいったようだな」
「人をコントロールするなんて、アナタは恐ろしい人だ」
「友を救う為だ。褒美に、今度、益田市に行ったら、居酒屋の銘店『田吾作』で烏賊刺しでもご馳走してやろう」
「えっ、益田に行くんですか?」
「いや、松江に行く用はあるが、益田には用はない」



----------------



一方、打ち拉がれて戻って来た全身黒っぽい服を着た若い女性に、意外にも怪人2号は優しい声をかけた。

「仕方ない。お前は、エロ仙人、ビエール・トンミーには勝ったのだ。見事、奴の心を射抜いたのだ。しかし……」

怪人2号は歯ぎしりした。

「…しかし、ビエール・トンミーにはエヴァンジェリスト氏という友がいた。そして、エヴァンジェリスト氏は只者ではなかったのだ。夫人とチュムチュムしているのか、という問いに、手越君風に『してないッスね、残念ながら』と軽薄に答えてはいるが、石原プロの救世主となると噂される人物なのだ。我々には太刀打ちできない相手なのだ





全身黒っぽい服を着た若い女性は、エヴァンジェリスト氏の美貌を浮かべていた。そして、「爺さん(エロ仙人)の友だちの方ならひょっとして、っていうことがあるかもしれないけど」と云ったこともあったことを思い出した。




「もういい」

怪人2号が、夢想にふけり始めた全身黒っぽい服を着た若い女性に声をかけた。

「お前は今後は、スナイパーを辞め、鹿と戯れる生活でもおくるが良かろう」


こうして、美人スナイパーの引退と共に、『プロの旅人』は、長かった「怪人」シリーズの終焉を迎えたようであった。


全身黒っぽい服を着た若い女性が、鹿と戯れる生活をおくる、という意味が不明ではあったが。そもそも、その言葉に意味があるのか自体、不明であった。








2015年6月7日日曜日

【解脱断固阻止】スナイパーに魅了され……【桃怪人2号の反撃】



「首尾はどうだ?」

暗がりで、しかし、振り向きもせず、男は訊いた。

「アタシと誰だと思っているの?勿論、百発百中よ」

暗がりで、しかも黒っぽい服を着た女が憮然として、男の背中に答えた。

「アイツを甘く見るな!ヤツはただのスケベエ爺いにしか見えないかもしれなが、その正体はエロ仙人だ」
「要は、スケベエなのね」
「ただのスケベエではない。元々は桃怪人であり、更に遡ると怪人(初代怪人)なのだ。常人には及びもつかない力を持っているのだ」
「どんな力を持つ男でも、男である限り、アタシに射抜けない男はないのよ。アナタだってね」
「何い!?」

男はやや動揺を見せた。

「アナタだって、アタシの甘い香りにもう腑抜けになっているじゃない」

確かに、女は馨しかった。

「何も匂わん!」
「BVLGARI pour hommeを付けて、アタシの匂いを誤魔化そうとしているのはお見通しよ」


「五月蝿い!BVLGARI pour hommeは、男の身嗜みだ。そんなことはどうでもいい。早くアイツを仕留めるのだ」
「せっかちねえ。獲物はゆっくり味あわなくっちゃ。もう1発目は命中したのだから」

そうだ。元・エロ仙人こと、ビエール・トンミー氏は既に、全身黒っぽい服を着た若い女性の香水(l'eau the one[ロー ザ・ワン])に心奪われ、その若い女性の下半身に目は釘付けになってしまったのだ。




「ミイラ取りがミイラにならんようにな」
「まさかあ。あんな爺さん、1億円積まれても嫌よ。爺さんの友だちの方ならひょっとして、っていうことがあるかもしれないけど」

そう云うと、女は片手をピストル状にして男の背中に当て、消音銃のように低く声を発した。

「ボン」

男は驚き、胸から桃のバッジを落した。





「ホーホッホッホッホ」

女は闇に姿を消した。






2015年5月21日木曜日

【解脱は認めん!】深化する怪人……【桃怪人2号の反撃】



「解脱だとお!?そんな話には騙されないぞ」


エロ仙人が解脱したと聞き、桃怪人2号はいきり立った。いや、カレは桃怪人2号であろうか?

「アイツはこの世で悟りには最も縁遠い人間だ。あのエロ爺いに、解脱なんてできる訳がない」

語気の強さの割に目元は涼やかであった。

目元?......怪人の目元?

怪人はサングラスをかけているはずだ。サンングラスに隠された目元が涼やかかどうか、分からないではないか。

しかし、カレはサングランスをかけていなかった。だから目元が見えるのだ

ピンクの帽子に白いマスク、これはどう見ても桃怪人だ。髪の様子や顔の輪郭から桃怪人2号と思われた。

『BVLGARI pour homme』の匂いもしたことから、カレが怪人2号の化身である桃怪人2号であることは明白であった。

しかし……サングラスをかけていないのだ。

更に、疑問なのは、目が違うのだ。怪人2号桃怪人2号の正体は、●●●氏だと思っていたが、ピンクの帽子に白いマスクはつけているもののサングラスをしていない男の目は、●●●氏のものではなかった。





ま、ま、まさか!........エロ仙人と同じなのか!?

そうだ、桃怪人2号も整形をしたのだ。しかも、エロ仙人と同じく目の整形をしたのだ。

「勝手な解脱は認めん!」

桃怪人2号あらため整形怪人2号は涼やかな目に強い意志を見せ、そう云った。





2015年5月10日日曜日

【いよいよ、石原プロ入りか?】『西部警察カラオケ』のヒットと『わたしの日々』連載中止とが意味するもの



「いよいよですか?」

エヴァンジェリスト氏を直撃した。

「は?なんのことだ?」
「いよいよなんでしょ、石原プロ入りが」
「おお、久しぶりにその線で来たか」
「事務所を通してくれ、は通じませんよ」
「何故だ?」
「だって、アナタ、まだ事務所には入ってないでしょ」
「なとほど、理屈だな」
「アナタの『事務所』は、石原プロしかないでしょ」
「まあ、皆んな、そう思っているのだろうな」
「で、いよいよなんでしょ?」
「どうして、いいいよ、なんだ?」
「だって、齋藤さんが云ってるじゃあないですか」
「齋藤さん?」
「しらばっくれてもダメですよ!」
齋藤厚子さんかい?石原プロモーション総務部企画担当・音楽出版担当の齋藤厚子さんかい?」
「ああ、やはりそうなんですね」
厚子さんは、ワシが石原プロ入りするなんて云ってはいないはずだ」
「ええ、そうは仰っていません」
「だろうなあ」
「しかしです。しかし、この夏、数年後の映画制作のために新人俳優を募集します、って仰っていました」
「うっ!」
「新人俳優募集って、実は、アナタに石原プロに入って欲しい、っていうプロポーズなんではないですか?」
厚子さん、『西部警察カラオケ』で当てたようだな」
「誤魔化さないでください」
「『西部警察カラオケ』で当てたのなら、ワシに頼る必要はないではないか」
「アナタ、本当にそう思っているのですか?」
「ううっ!なんだ、その挑戦的な言い方は」
「手持ちの権利、資産を活用することは悪いことではありません。企業はどんな手を使っても利益を上げていかなくてはいけませんからね」
「その通りだ」
「しかし、アナタは思っているはずだ。過去の資産に頼ってばかりではダメだ、と」
「勝手にヒトの心を読むのではない!」
「アナタ、まだ『石原プロ』と『水木プロ』の合併を画策しているのではないですか?」


「そんな勝手なことをほざいていると、まき子夫人や尚子さんに叱られるぞ!」
水木プロダクションの武良尚子さんのことも、『尚子さん』って呼ぶ程の仲なんですね」
「違う!番う!尚子さんとは面識はない」
「分っているんですよ。『西部警察カラオケ』のニュースと『ビッグコミック』の水木先生の『わたしの日々』の連載中止のニュースがほぼ同時に流れたのは偶然でしょうか?」
「そりゃ、偶然だろう」
「ほほー、お惚けですか。アナタが裏でイトを引いているんでしょ?石原プロは『西部警察カラオケ』のヒットで合併に向けプラス・イメージを作り、一方、水木先生は、合併準備で忙しくなって連載を中止されたのではないですか?
「いい加減にしろ、そんなガセネタは。これ以上云うなら、石原プロと水木プロに代ってワシが厳重抗議をするぞ!」
「ほら、ボロが出た。アナタ,石原プロと水木プロに代る(両プロを代表する)立場にあるんですね!?」
「五月蝿い!誰か、桃怪人2号でも呼んで、こいつを退治させてくれないか!」