「首尾はどうだ?」
暗がりで、しかし、振り向きもせず、男は訊いた。
「アタシと誰だと思っているの?勿論、百発百中よ」
暗がりで、しかも黒っぽい服を着た女が憮然として、男の背中に答えた。
「アイツを甘く見るな!ヤツはただのスケベエ爺いにしか見えないかもしれなが、その正体はエロ仙人だ」
「要は、スケベエなのね」
「ただのスケベエではない。元々は桃怪人であり、更に遡ると怪人(初代怪人)なのだ。常人には及びもつかない力を持っているのだ」
「どんな力を持つ男でも、男である限り、アタシに射抜けない男はないのよ。アナタだってね」
「何い!?」
男はやや動揺を見せた。
「アナタだって、アタシの甘い香りにもう腑抜けになっているじゃない」
確かに、女は馨しかった。
「何も匂わん!」
「BVLGARI pour hommeを付けて、アタシの匂いを誤魔化そうとしているのはお見通しよ」
「五月蝿い!BVLGARI pour hommeは、男の身嗜みだ。そんなことはどうでもいい。早くアイツを仕留めるのだ」
「せっかちねえ。獲物はゆっくり味あわなくっちゃ。もう1発目は命中したのだから」
そうだ。元・エロ仙人こと、ビエール・トンミー氏は既に、全身黒っぽい服を着た若い女性の香水(l'eau the one[ロー ザ・ワン])に心奪われ、その若い女性の下半身に目は釘付けになってしまったのだ。
「ミイラ取りがミイラにならんようにな」
「まさかあ。あんな爺さん、1億円積まれても嫌よ。爺さんの友だちの方ならひょっとして、っていうことがあるかもしれないけど」
そう云うと、女は片手をピストル状にして男の背中に当て、消音銃のように低く声を発した。
「ボン」
男は驚き、胸から桃のバッジを落した。
「ホーホッホッホッホ」
女は闇に姿を消した。
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