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2020年12月7日月曜日

バスローブの男[その39]

 


「(お手合せ願いたいわ!)」


『マダム・トンミーとなる前のマダム・トンミー』は、そう思った。マーケティング部の新システム稼働開始の打上げをしている居酒屋で、彼女のすぐ横に、マーケティング部の部長と共に立つビエール・トンミー氏の股間に目を据えたままであった。


「(凶器攻撃、望むところだわ!)」


プロレス好きのマダム・トンミーは、『原宿の凶器』と呼ばれるビエール・トンミー氏が股間に隠す『凶器』を、栓抜きかボールペン、もしくはメリケンサックといったプロレスラーが使う凶器と思い込んでいた。


「(よし!)」


と、マダム・トンミーは、歯を食いしばり、ビエール・トンミー氏の凶器攻撃を受けて、額から出血しても立ち向かう自身の姿を思い描いていた時であった。




「で、みんな、今回の新システム稼動にあたっては、『原宿の凶器』トンミー君に相応しいタッグ・パートナーがいたんだ」


と、マーケティング部の部長が口にした『タッグ・パートナー』という言葉に、マダム・トンミーは、思わず反応した。


「え?」


と口を開けたマダム・トンミーを部長は指して、言葉を続けた。


「『マーケティング部の華』であり、『原宿のマドンナ』でもある彼女だ!さあ、立って」


と促され、マダム・トンミーは、ビエール・トンミー氏の横に立った。



(続く)



2020年9月21日月曜日

治療の旅【江ノ島/鎌倉・編】[その122]



治療の旅【江ノ島/鎌倉・編】[その121]の続き)



「あっち?」


ビエール・トンミー氏は、並んだ歩く友人のエヴァンジェリスト氏の方に顔を向け、口を開けたままにした。二人は、鎌倉大仏のある高徳院の仁王門を潜り、券売所近くまで来ていた。


「そうだ。あっちだ。君は、『みさを』と京都の大仏を見に行ったのか?」


というエヴァンジェリスト氏の言葉をビエール・トンミー氏は、理解できなかった。


「はああん?京都の大仏?」

「ああ、京の大仏だ」

「京都に大仏なんかあったかなあ?」

「あったさ」

「そんなの見たことないぞ」

「そりゃ、そうだろう。今は大仏自体はもうないからな」

「どういうことだ?」

「その昔、豊臣秀吉が建てたんだそうだが、焼失し、その後、何度か再建されたものの、やはり焼失して今はもうないんだ。でも、君は、『みさを』と正面橋は渡らなかったか?」






「正面橋?」

「ああ、正面通にある橋だ。正面橋、正面通は、京の大仏の正面につながるからそう名付けられたんだ」

「へええ」

「奈良の大仏より大きかった京の大仏は、それ自体はもうないが、大仏殿跡緑地公園に八角形の台座の位置を示す石があるんだぞ」

「そうなんだあ。君は、その跡地を見に行ったのか?」

「いや、行っていない。話に聞いただけだ」

「なーんだ」

「君もどうせ、京都に行ったのは、『みさを』といちゃつくことが目的だったんだろう?」

「いや、『みさを』とは京都には行っていない」

「そうかあ、でも、ここには来たんだな?」



(続く)




2020年9月20日日曜日

治療の旅【江ノ島/鎌倉・編】[その121]



治療の旅【江ノ島/鎌倉・編】[その120]の続き)



「君も、大仏の中に入ったのか?」


鎌倉大仏のある高徳院の入口から中に進みながら、エヴァンジェリスト氏は、友人のビエール・トンミー氏に話していた。


「まさか、中に入れるとは思っていなかっただろ?」


しかし、話題としているのは、今から見ようとしている鎌倉大仏ではなく、富山の高岡大仏であった。




「ボクは、高岡大仏の中に入ったことはない」

「ということは、『みさを』だけ、中に入ったのか?『みさを』は、驚いただろう、中に大仏の首があるんだものなあ」




「君も本当にしつこいなあ。『みさを』も中に入っていない」

「そうかあ、二人共、外から見ただけか」

「いいか、高岡に行ったことはないし、だから、高岡大仏も見たことはない」

「じゃあ、『みさを』と見に行ったのは、あっちの方か?」



(続く)




2020年9月19日土曜日

治療の旅【江ノ島/鎌倉・編】[その120]



治療の旅【江ノ島/鎌倉・編】[その119]の続き)



「で、あの背中だろ?」


鎌倉大仏のある高徳院の入口にいるのに、エヴァンジェリスト氏は、ビエール・トンミー氏に高岡大仏を語ろうとしていた。


「高岡大仏だな?」


というビエール・トンミー氏の方をエヴァンジェリスト氏は、見ることなく、


「君もやはり驚いたのか?あんな路地であんなものを見ることになるなんて思いもしないものな」


と、富山県高岡市の『大佛旅館』のある住宅街の路地に突如、出現した大きな背中を虚空に見ていた。


「で、その先に児童公園だろ?」

「はあ?児童公園?」

「そう、最初は児童公園だと思ったんだ。で、どうして児童公園に大仏があるのか、ってね。どう見ても大仏だが、本当に大仏か、ってね」

「児童公園ではなく、境内だったんだな」

「そうかあ、君も行ったことがあるから知っているんだな」

「いや、話の流れから分るだろ」

「で、境内に入り、正面から見ると、やはり立派な大仏だったが、それよりも驚いたのが、大仏前にある説明書きだ」

「そこに日本三大仏、とあったんだな」




「君も『みさこ』とあれを読んだか?あ、いや、『みさを』か?」

「しつこいなあ」



(続く)



2020年9月18日金曜日

治療の旅【江ノ島/鎌倉・編】[その119]

 



治療の旅【江ノ島/鎌倉・編】[その118]の続き)



「図星だったんだな」


鎌倉大仏のある高徳院の入口で、鎌倉大仏についてではなく高岡大仏について語っていたエヴァンジェリスト氏が、友人のビエール・トンミー氏に、高岡大仏のある富山県高岡市の『大佛旅館』に、女とお忍びで泊ったのではないか、と云ったところ、友人は動揺を見せたのだ。


「そ、そ、そんな『みさを』なんて女、知らん!」


ビエール・トンミー氏は、エヴァンジェリスト氏が思う以上に動揺していた。


「おいおい、誰だ、『みさを』って?ボクは、君が『大佛旅館』にお忍びで泊った女のことは、『みさこ』と云ったんだぞ」


エヴァンジェリスト氏は、その年(2016年)、NHKの朝ドラ『べっぴんさん』に出演していた女優『蓮佛美沙子』から発想して、適当に『みさこ』という名前を出したのであった。『大佛旅館』の『佛』から、『蓮佛美沙子』を思い付いたのだ。名前に『佛』のある人は珍しく、『蓮佛美沙子』を連想しただけであった。


「っ….ああ、云い間違いだ。『みさこ』なんて知らん、知らん」

「ふふーん。『みさこ』と『大佛旅館』の風呂に一緒に入ったのか?」

「え、『大佛旅館』には風呂があるのか?」

「そりゃ、あるだろう」

「一緒にということは、混浴か?」




「知らない。君は泊ったんだから知っているだろう」

「いや、だから泊っていない」

「風呂で体を温めあって、その晩、ふふ…で、翌朝、あの路地を、か」

「だからあ…」



(続く)



2020年9月17日木曜日

治療の旅【江ノ島/鎌倉・編】[その118]

 



治療の旅【江ノ島/鎌倉・編】[その117の続き)



「回りくどいなあ。君のくどさはよーく知っているが、それにしてもくどいぞ」


ビエール・トンミー氏は、友人のエヴァンジェリスト氏に対して、心底呆れている口調でそう云った。ビエール・トンミー氏とエヴァンジェリスト氏とは、鎌倉大仏前まで、というか鎌倉大仏のある高徳院の入口まで来ていた。


「まさか、高岡という所に大仏があるのか?」


興味はなかったが、ビエール・トンミー氏は、エヴァンジェリスト氏に問うた。


「やっぱり知っていたのか。それなら分るだろうが、高岡大仏には驚かされるよなあ」

「高岡大仏なんて知らないし、興味はない」

「あれは、ただの路地だぞ」

「路地?何を云いたいんだ?」

「出張で少し時間が空いたから、街を歩いてみようと、住宅街のせまーい道を歩いていたんだ。そうしたら、アレがあったからなあ」

「興味はないが、それが、高岡大仏か?」

「焦るな、焦るな」

「いや、焦っているのではない。高岡大仏のことなんかどうでもいいから…」

「『大佛旅館』だ。何故、住宅街に旅館が?と思ったし、何故、『大佛』なんだ、妙なネーミングだなあ、とは思った。君だって、驚いただろ?名前も不思議だと思っただろ?」

「『大佛旅館』なんて知るわけがないだろ」

「隠すな、隠すな。『大佛旅館』に泊ったことあるんだろ?」

「ない!」

「ああそうか、お忍びだったんだな」

「また、何を妄想しているんだ」

「『みさこ』とかって女とで泊ったんだろう?」

「え!?」





(続く)




2020年9月16日水曜日

治療の旅【江ノ島/鎌倉・編】[その117]






「『オバケのQ太郎』は、正確には、藤子・F・不二雄というよりも藤子不二雄の作品だが、つまり、藤子・F・不二雄と藤子不二雄Ⓐの合作だが、藤子不二雄Ⓐも高岡市の隣の氷見市出身で、10歳の頃、高岡市に引っ越しているから、藤子不二雄もまあ、高岡出身で間違いないだろう。君が、広島出身であるのと同じだ。生れは広島ではないものの、多感な中学・高校時代を広島で過ごしたんだからな」

と、エヴァンジェリスト氏は、鎌倉大仏に向かう狭い歩道で他の歩行者を気にすることもなく、ビエール・トンミー氏に対して、滔々と藤子不二雄を、高岡を語る。

「おいおい、ボクは、自分を広島出身と云ったことはないぞ」

というビエール・トンミー氏の抗議もものかは、エヴァンジェリスト氏は、高岡を語り続ける。

「同じく高岡出身ではないが、万葉集で有名な大伴家持も高岡にゆかりがあることから、高岡は万葉のふるさととも云われているんだぞ。だから、高岡の路面電車は、『万葉線』という名前なんだ」
「君は、高岡の回し者か?高岡の親善大使でもしているのか?」
「いや、違う。風吹ジュンの関係者でもない」
「また訳の分らんことを云う。どうせ、風吹ジュンは高岡出身なんだろう?」
「おお、さすが、天下のハンカチ大学商学部出身にして、『SNCF』の大家、老いては西洋美術史裸体画専攻インモー研究家だけのことはあるな。風吹ジュンが高岡出身であることを知っているとは、実は君は高岡に詳しいのではないか?」
「知らん、知らん。話の流れから、風吹ジュンは高岡出身なんだろうと類推しただけだ」
「ひょっとして、仏壇でも買いに高岡に買いに行ったことがあるのではないのか?」
「はあ?高岡は仏具で有名なのか?」
「ほーら、やっぱり知っているではないか。高岡は銅器作りで有名だからな」
「は?」
「またまた惚けてえ。銅器作りから、仏具の製造・販売も盛んなんだ。さあ、もうわかっただろ?」




(続く)



2020年9月15日火曜日

治療の旅【江ノ島/鎌倉・編】[その116]






「高岡だ」

鎌倉大仏に向かう狭い歩道を歩きながら、エヴァンジェリスト氏の声は自慢げである。

高岡奏輔ではないぞ」

友人のビエール・トンミー氏に、日本三大仏を問い、奈良の大仏、鎌倉の大仏の他の三番目の大仏を教えるところであった、

「はあ?」
「まあ、芸能界に疎い君は知らんだろうな。宮﨑あおいの元亭主で、俳優だ」

高岡奏輔(2016年当時の芸名)は、その時、まだ芸能界を引退していなかった。

「そいつが大仏と何の関係があるんだ?」
「関係ない。高岡奏輔ではないぞ、と云っただろ。でも、高岡早紀でもないぞ」
「よく知らんが、女優だな。で、要するに『高岡』って何なんだ?」
「富山だ。富山県の高岡市だ」
「ふうん、そんな市があるのか」
「なーんだと、バッカもーん!高岡市は、藤子・F・不二雄の出身地だぞ」
「ほお、それは知らなかったが、そのことを知らなかったからといって、君からバカもん呼ばわりされることはないっ!ボクは、ドラえもん世代ではないからな」
「ふん!キュッ、キュッ、キューッ」

突然、エヴァンジェリスト氏が、ブレーキ音のような声を出した。

「はあ?」
「オ、バッケーのキュー!」

そうだ。それは、ブレーキ音ではなく、歌だった。




「ああ、分った、分った。ボクは、オバQ世代ではある」

エヴァンジェリスト氏の執念に、ビエール・トンミー氏は、降伏した。


(続く)



2020年9月14日月曜日

治療の旅【江ノ島/鎌倉・編】[その115]






「へっ!?」

鎌倉大仏に向かう狭い歩道で、ビエール・トンミー氏は、お尻から『ダイ』を漏らしはしなかったが、口から『ヘ』を出してしまった。日本三大仏は何かを友人のエヴァンジェリスト氏に問われ、奈良の大仏、鎌倉の大仏の他に牛久大仏と答えたが、友人に『デカければ、日本三大仏になれるのか?』と問われたのだ。

「奈良の大仏や鎌倉の大仏よりもっと大きい大仏は幾つもあると思うがなあ」

と、エヴァンジェリスト氏は、下顎を少し上げ、したり顔で周囲を見回した。

「うっ…」

ビエール・トンミー氏が、言葉に詰まると、エヴァンジェリスト氏は、訳の分ったような、分からぬようなことを云ってきた。

「それに、アイツ、立ってるだろう」
「アイツ?」
「ウシくんだ」
「そんな云い方、バチが当たるぞ」
「親しみを込めた云い方のどこがいけないんだ」
「君は、牛久大仏と親しいのか?」
「親しくはないが、ただデカい、高いではなあ。それも、坐像ではなく立像でだものなあ。君は、座高と身長とを比較するか?」




「じゃあ、どこの大仏なんだ、3番目の大仏は?」
「ふふん、知りたいか?」
「勿体を付けるな!」


(続く)

2020年9月13日日曜日

治療の旅【江ノ島/鎌倉・編】[その114]






「余計な心配だ」

と、ビエール・トンミー氏は、鎌倉大仏に向かう狭い歩道を横に並んで歩くエヴァンジェリスト氏の方を見ることもなかった。回答を必死で考えるあまり、気張りすぎてパンツに『カレー』を付けることのないよう、エヴァンジェリスト氏から、心配されたのだ。

「では、あらためて問う。日本三大仏を云え」

そうだ。鎌倉文学館を出た後、次は鎌倉大仏に向かうと知った時、エヴァンジェリスト氏は、ビエール・トンミー氏に、『君は、日本三大仏を知っているか?』とクイズにような質問を出したのである。

「うっ…だからあ、鎌倉の大仏とお、奈良の大仏とお…」

と、また気張りそうになった自分に気付き、ビエール・トンミー氏は、

「ふーっ…」

と息を吐いた。

「おお、そうだ、そうだ。緊張をほぐせば、『カレー』漏れは防げるぞ」
「五月蝿い!...あ、そうだ。牛久だ。牛久大仏だ!」
「ほほー、ようやく候補が出たか」
「候補?」
「ところで、どうして牛久が出てきたんだ?『カレー』から『ビーフ・カレー』を連想したのか?」
「いい加減、その『カレー』話、止めないか。それに、候補って、どういうことだ?牛久大仏ではないのか?」
「では訊くが、何故、牛久大仏が日本三大仏の一つなんだ?牛久大仏がそう云っているのか?あ、間違えるな、牛久大仏自身がそう喋っているのか、というのではないぞ。その所有者、管理者がそう云っているのか、と訊いているのだ」




「馬鹿にしているのか?いやまあ、日本三大仏だと自称しているかどうかは知らんが、あれはでかいぞお」
「へええ、デカければ、日本三大仏になれるのか?」


(続く)



2020年9月12日土曜日

治療の旅【江ノ島/鎌倉・編】[その113]






「知ったことか!」

鎌倉大仏に向かう狭い歩道を歩きながら、ビエール・トンミー氏が、エヴァンジェリスト氏に怒鳴った。前を歩く2人の若い女性が振り向いた。

「いや、君だって、その状況に置かれたら、『知ったことか』では済まないんだぞ」

エヴァンジェリスト氏は、前年(2015年)、出張中にモヨオシ、大阪多高島屋のトイレに駆け込んだものの、間に合わず、パンツに『カレー』を付けてしまい、そのパンツの処分に困った時のことを話していた。

「いや、ボクは、そんな状況に置かれない」
「いや、君だって、さっきボクの質問に気張りすぎて、お漏らしをしそうになっただろ」
「いやいや、なってない!」

ビエール・トンミー氏は、つい最近、確かに少し、ほんの少しだが、パンツの中にお漏らしをしたことがあったことは黙し、友人に対して怒りを露わにした。

「幸いなあ、そのトイレの個室には、汚物入れがあったんだ」
「え?男性用トレイに汚物入れがあるのか?」

と云ったものの、エヴァンジェリスト氏の話に乗ってしまったことを後悔した。

「あったんだ。そうでなければ、『カレー』の付いたパンツをどこに捨てるんだ」
「いや、もうそのことはいい」
「問題は更にあった。パンツなしでその後、どうするかだ」
「だからあ、もうその話はいい」
「ああ、もう終りだ。パンツなしでスーツのズボンを履くしかなかった。少々、股間に違和感はあったが、『カレー』の付いたパンツを履いたままよりはずっとましだからな。で、自分自身、そんな経験があるから、気張っている君が心配だった、ということさ」

と、エヴァンジェリスト氏は、友人の横顔に向け、微笑した。





(続く)



2020年9月11日金曜日

治療の旅【江ノ島/鎌倉・編】[その112]






「エスカレーターを歩いて上り、5階まで急いだんだがなあ…」

『長谷観音前』の交差点を曲がり、鎌倉大仏に向かう狭い歩道を歩きながら、エヴァンジェリスト氏が、眉を八の字にした。

「まあ、5階に着いた時はまだ大丈夫だった….と思う。だけどなあ」

と云いながら、自らの臀部に手を当てた。

「トイレを探して歩いている間にだなあ…うーん、オナラを出した….と、自分では思いたかったんだが」
「もういい、止めろ!」
「ああ、ボクは自分を騙せない。君のことも騙すことはできない」
「ボクのことはどうでもいいだろうが!」
「そうなんだ。ボクは知っていた。それが、オナラではないことをな。だから、トイレを見つけ、個室に入った時には、もう覚悟はできていた」
「そんなの覚悟と云うか」
「ああ、ズボンを下ろし、パンツを下ろし、その中を見た」
「止めろ、止めろ!見たくない、聞きたくない!」
「ボクは、そこにカレーライスを見た。いやいや、ライスはなかったから、カレーだな」




「バカモン!想像したじゃないか!」
「幸い、量は多くはなく、ズボンまでは達していないようだった。が、取り敢えず、トレイに座り、出すものは出した。出し切った。ホッとした」
「ホッとしない!」
「でもな、問題はパンツだ」
「総てが問題だ」
「『カレー』の付いたパンツをどうするかだ。どうしたと思う?君ならどうする?」


(続く)



2020年9月10日木曜日

治療の旅【江ノ島/鎌倉・編】[その111]






「その時はなあ、『クッサー!』では済まなかったんだ」

と、『長谷観音前』の交差点を曲がりながら、エヴァンジェリスト氏が、悔恨の表情を浮かべた。友人のビエール・トンミー氏が、ダイをパンツにお漏らしするのではないか、という勝手な妄想から、前年(2015年)、自分が大阪高島屋前を歩いている時のことを思い出し、更に、『クッサー!』というギャグで有名だったかつての吉本新喜劇の大スター岡八郎のことを思い出していたのであった。

「『クッサー!』は、まあ、普通、オナラだろ」

とビエール・トンミー氏に同意を求めたが、

「知らん!」

友人はつれなかった。

「でも、あの時はなあ、オナラだけじゃなくなったんだ」

エヴァンジェリスト氏には、難波の大阪高島屋前の歩道をもぞもぞと歩いていた時の感覚が蘇ってきていた。

「最初は、オナラが出そう、と思ったんだ。だがな、オナラすると、なんだか余計なものまで出てきそうな感覚があったのは確かだ」
「おい、そんな話、止めないか」

ビエール・トンミー氏は、他の歩行者の耳を気にしていた。

「まずいと思ったから、ボクは、大阪高島屋に入った。トイレだ。何階のトイレに行ったと思う?」
「知るか!」
「5階だ。どうして、5階まで行ったんだ、と思うだろ?」
「思わん!どうでもいい!」
「紳士服売場が5階だったんだ。だって、婦人服売場をスーツを着た男がうろついていたら変だろ」
「君は、どこにいても変だ」




(続く)




2020年9月9日水曜日

治療の旅【江ノ島/鎌倉・編】[その110]






「あれはなあ、難波だったんだ」

『長谷観音前』の交差点方面近くまで戻ったところで、エヴァンジェリスト氏は、出張で行った難波の大阪高島屋前の歩道を思い出していた。

「どうしてだったか、急にね」

と、エヴァンジェリスト氏は、お尻に手を当てた。そして、その手を体の前、顔まで持ってくると、鼻に当て、

「クッサー!」

と、云うと同時に、手を開きながら叫んだ。

「止めろ!」

並んで歩いていたビエール・トンミー氏が、真顔で制した。

「『クッサー!』知ってるか?」
「知るか、そんなもん」
「オーカ⭐︎※♯♩だ」
「はあ?」
「オーカワハシゾー、オーカハシゾー、オーカハチロウ、オカ・ハチロウ、そう、奥目のハッチャンこと、岡八郎だ!」




「岡八郎は、なんとなく覚えているが、そんなものどうでもいい」
「恐れ多くも、かつての吉本新喜劇の大スターだ。『クッサー!』は、岡八郎のギャグだったんだぞ。最初は、『オレはキックの鬼だ』と云って、当時流行っていたキックボクシングの構えをして、ヘッピリ腰で両手を出しているんだが、その内、片手をお尻に持っていって、『クッサー!』だ」
「関心ないからな」
「『クッサー!』は最高だった。でも…」

エヴァンジェリスト氏が、項垂れ、顔を曇らせた。


(続く)