「あれはなあ、難波だったんだ」
『長谷観音前』の交差点方面近くまで戻ったところで、エヴァンジェリスト氏は、出張で行った難波の大阪高島屋前の歩道を思い出していた。
「どうしてだったか、急にね」
と、エヴァンジェリスト氏は、お尻に手を当てた。そして、その手を体の前、顔まで持ってくると、鼻に当て、
「クッサー!」
と、云うと同時に、手を開きながら叫んだ。
「止めろ!」
並んで歩いていたビエール・トンミー氏が、真顔で制した。
「『クッサー!』知ってるか?」
「知るか、そんなもん」
「オーカ⭐︎※♯♩だ」
「はあ?」
「オーカワハシゾー、オーカハシゾー、オーカハチロウ、オカ・ハチロウ、そう、奥目のハッチャンこと、岡八郎だ!」
「岡八郎は、なんとなく覚えているが、そんなものどうでもいい」
「恐れ多くも、かつての吉本新喜劇の大スターだ。『クッサー!』は、岡八郎のギャグだったんだぞ。最初は、『オレはキックの鬼だ』と云って、当時流行っていたキックボクシングの構えをして、ヘッピリ腰で両手を出しているんだが、その内、片手をお尻に持っていって、『クッサー!』だ」
「関心ないからな」
「『クッサー!』は最高だった。でも…」
エヴァンジェリスト氏が、項垂れ、顔を曇らせた。
(続く)
0 件のコメント:
コメントを投稿