「おお、なかなかいいなあ」
と云うエヴァンジェリスト氏は、鎌倉文学館の特別展示室を出たビエール・トンミー氏と、鎌倉文学館の庭園にいた。
「うーむ、これは、江戸川乱歩の世界だなあ」
庭園から鎌倉文学館の建物を見上げたエヴァンジェリスト氏が、しみじみとした云い方をしたのであった。
「はあ?」
ビエール・トンミー氏は、友人の言葉の意味を理解しかねた。
「江戸川乱歩のドラマに出てくるような洋館だ」
「君は、江戸川乱歩が好きだったのか?」
「天知茂だ」
「え?天知茂って、確か…なんとかのライセンスじゃなかったか?」
「おお、さすが『博識大先生』。そうだ、『非情のライセンス』だ」
「君が、学生時代、上池袋の下宿で毎日、再放送を見ていた天知茂・主演のドラマだろ」
「そうだ。ボクは、いずれ『異常のライセンス』という小説を書き、そのドラマ化にあたっては、君に『天知茂樹』という芸名で主演をしてもらいたいと思っている」
「いや、ボクは余生を静かに過ごしたい」
「それだけの美貌を埋もらせたままとするのは、世の損失だ」
「それも分らなくはないんだが…」
「型破りな『変態』刑事の活躍を描く作品なんだぞ。『変態』ぶりを思う存分発揮できるんだ。違法捜査もなんのその、『変態』のやりたい放題なんだぞ」
「うっ!なかなか魅力的だが…」
「天知茂の『非情のライセンス』を超えるドラマは、君こと『天知茂樹』の『異常のライセンス』しかない」
「おお!」
と、その気になりかけたビエール・トンミー氏であったが、冷静さを取り戻した。庭園にいた他の来館者が、『変態』という言葉が耳に入ったのか、胡散臭いものを見る視線を送ってきたのに気付いたのだ。
「でも、『非情のライセンス』って、江戸川乱歩が原作だったのか?」
(続く)
0 件のコメント:
コメントを投稿