「(『みさを』も黙っていた)」
鎌倉駅前で、ビエール・トンミー氏は、『みさを』と来た時のことを思い出していた。
「アタシ、夜、嫌い」
『みさを』は、ポツリとそう云ったのだった。
「え?」
『みさを』の気持ちを測りかね、ビエール・トンミー氏は、その一言を発することしかできなかった。
「ごめんね、ビーちゃん」
『みさを』が謝った。
「は?何も謝ることないよ」
夜が嫌いということは、夜が怖いということなのだと、ビエール・トンミー氏は、思った。だから、『みさを』を安心させようと、云った。
「ボクが一緒だから、大丈夫だよ」
しかし、その言葉がより『みさを』を苦しめたのだ。一瞬、泣き出しそうな顔をしたが、『みさを』のその顔は、夕闇の中、ビエール・トンミー氏には見えず、
「そうだよね、ビーちゃん。さ、行こう」
と、明るさを取り戻したような言葉だけが聞こえたことを思い出していたその時に、
「さあ、行こう」
思い出の中に、無神経な友人が、割り入って来た。
(続く)
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