「あっち?」
ビエール・トンミー氏は、並んだ歩く友人のエヴァンジェリスト氏の方に顔を向け、口を開けたままにした。二人は、鎌倉大仏のある高徳院の仁王門を潜り、券売所近くまで来ていた。
「そうだ。あっちだ。君は、『みさを』と京都の大仏を見に行ったのか?」
というエヴァンジェリスト氏の言葉をビエール・トンミー氏は、理解できなかった。
「はああん?京都の大仏?」
「ああ、京の大仏だ」
「京都に大仏なんかあったかなあ?」
「あったさ」
「そんなの見たことないぞ」
「そりゃ、そうだろう。今は大仏自体はもうないからな」
「どういうことだ?」
「その昔、豊臣秀吉が建てたんだそうだが、焼失し、その後、何度か再建されたものの、やはり焼失して今はもうないんだ。でも、君は、『みさを』と正面橋は渡らなかったか?」
「正面橋?」
「ああ、正面通にある橋だ。正面橋、正面通は、京の大仏の正面につながるからそう名付けられたんだ」
「へええ」
「奈良の大仏より大きかった京の大仏は、それ自体はもうないが、大仏殿跡緑地公園に八角形の台座の位置を示す石があるんだぞ」
「そうなんだあ。君は、その跡地を見に行ったのか?」
「いや、行っていない。話に聞いただけだ」
「なーんだ」
「君もどうせ、京都に行ったのは、『みさを』といちゃつくことが目的だったんだろう?」
「いや、『みさを』とは京都には行っていない」
「そうかあ、でも、ここには来たんだな?」
(続く)
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