「知ったことか!」
鎌倉大仏に向かう狭い歩道を歩きながら、ビエール・トンミー氏が、エヴァンジェリスト氏に怒鳴った。前を歩く2人の若い女性が振り向いた。
「いや、君だって、その状況に置かれたら、『知ったことか』では済まないんだぞ」
エヴァンジェリスト氏は、前年(2015年)、出張中にモヨオシ、大阪多高島屋のトイレに駆け込んだものの、間に合わず、パンツに『カレー』を付けてしまい、そのパンツの処分に困った時のことを話していた。
「いや、ボクは、そんな状況に置かれない」
「いや、君だって、さっきボクの質問に気張りすぎて、お漏らしをしそうになっただろ」
「いやいや、なってない!」
ビエール・トンミー氏は、つい最近、確かに少し、ほんの少しだが、パンツの中にお漏らしをしたことがあったことは黙し、友人に対して怒りを露わにした。
「幸いなあ、そのトイレの個室には、汚物入れがあったんだ」
「え?男性用トレイに汚物入れがあるのか?」
と云ったものの、エヴァンジェリスト氏の話に乗ってしまったことを後悔した。
「あったんだ。そうでなければ、『カレー』の付いたパンツをどこに捨てるんだ」
「いや、もうそのことはいい」
「問題は更にあった。パンツなしでその後、どうするかだ」
「だからあ、もうその話はいい」
「ああ、もう終りだ。パンツなしでスーツのズボンを履くしかなかった。少々、股間に違和感はあったが、『カレー』の付いたパンツを履いたままよりはずっとましだからな。で、自分自身、そんな経験があるから、気張っている君が心配だった、ということさ」
と、エヴァンジェリスト氏は、友人の横顔に向け、微笑した。
(続く)
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