「うーむ、君はやはり、ノーベル文学賞を受賞するに相応しい男だ」
ビエール・トンミー氏は、鎌倉文学館の庭園の南側にあるバラ園で、バラの香りを吸い込みながら、もう冷やかしではなく本心からの言葉を、友人のエヴァンジェリスト氏に向け、発した。
「おお。だが、ボクの世界の具現化、つまり映像化には、君が必要なんだからな」
というエヴァンジェリスト氏の言葉に、心友を持つことの有り難さを感じ、迂闊にも涙ぐみそうになった時であった。
「♩バラはな~げきのはーなかあ♫」
心友が、いきなり歌い出した。
「え!?」
心友は、眉間に皺を寄せていた。天知茂になりきり、テレビ・ドラマ『非情のライセンス』の主題歌『非情の街』を歌い出したのだったが、勿論、ビエール・トンミー氏が知る由もない。
「♩きずーをだーきなーがら♫」
とか、
「♩ひーとり、かーれのをあるくう♫」
とか、
「♩おーれがあーるく、みちわーいーつも、くーらくてとおーいい♫」
と一人、勝手に唄うエヴァンジェリスト氏に、ビエール・トンミー氏は、怒りが湧き出してきた。
「やめろ!やめろ、やめろ!」
(続く)
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