2020年9月5日土曜日

治療の旅【江ノ島/鎌倉・編】[その106]






「うーむ、君はやはり、ノーベル文学賞を受賞するに相応しい男だ」

ビエール・トンミー氏は、鎌倉文学館の庭園の南側にあるバラ園で、バラの香りを吸い込みながら、もう冷やかしではなく本心からの言葉を、友人のエヴァンジェリスト氏に向け、発した。

「おお。だが、ボクの世界の具現化、つまり映像化には、君が必要なんだからな」

というエヴァンジェリスト氏の言葉に、心友を持つことの有り難さを感じ、迂闊にも涙ぐみそうになった時であった。

「♩バラはな~げきのはーなかあ♫」

心友が、いきなり歌い出した。




「え!?」

心友は、眉間に皺を寄せていた。天知茂になりきり、テレビ・ドラマ『非情のライセンス』の主題歌『非情の街』を歌い出したのだったが、勿論、ビエール・トンミー氏が知る由もない。

「♩きずーをだーきなーがら♫」

とか、

「♩ひーとり、かーれのをあるくう♫」

とか、

「♩おーれがあーるく、みちわーいーつも、くーらくてとおーいい♫」

と一人、勝手に唄うエヴァンジェリスト氏に、ビエール・トンミー氏は、怒りが湧き出してきた。

「やめろ!やめろ、やめろ!」


(続く)




0 件のコメント:

コメントを投稿