2020年9月23日水曜日

治療の旅【江ノ島/鎌倉・編】[その124]

 


治療の旅【江ノ島/鎌倉・編】[その123]の続き)



「『みさを』だと思ったんだな」


鎌倉大仏のある高徳院の券売所を過ぎたところで、呆然と立ち尽くす友人のビエール・トンミー氏を見て、エヴァンジェリスト氏が、声をかけた。


「『みさを』も『おっきいねえ』と云ったんだな、ここで…」


しかし、エヴァンジェリスト氏は、自らの言葉を飲み込んだ。それ程までに、友人は、自失していたのだ。


「……」


それ以上、友人に声をかけることなく、エヴァンジェリスト氏は、鎌倉大仏へと歩を進めた。


「(あの時、君の背中は悲しそうだった…)」


『おっきいねえ』と云った後、『みさを』は、今のエヴァンジェリスト氏と同様、ビエール・トンミー氏に背を向け、大仏へと先を歩いて行ったのだ。


「優しいね、大仏様って」


背を向けたまま、『みさを』がそう云った時、ビエール・トンミー氏は、感じた。見えてはいなかったが、彼女が涙していることが分った。


「似てるね」


と、振り向いた『みさを』の目頭が、一瞬だが光った。




「え?」


しかし、ビエール・トンミー氏は、間抜けな、気の抜けたような声しか出せなかった。



(続く)




0 件のコメント:

コメントを投稿