「『みさを』だと思ったんだな」
鎌倉大仏のある高徳院の券売所を過ぎたところで、呆然と立ち尽くす友人のビエール・トンミー氏を見て、エヴァンジェリスト氏が、声をかけた。
「『みさを』も『おっきいねえ』と云ったんだな、ここで…」
しかし、エヴァンジェリスト氏は、自らの言葉を飲み込んだ。それ程までに、友人は、自失していたのだ。
「……」
それ以上、友人に声をかけることなく、エヴァンジェリスト氏は、鎌倉大仏へと歩を進めた。
「(あの時、君の背中は悲しそうだった…)」
『おっきいねえ』と云った後、『みさを』は、今のエヴァンジェリスト氏と同様、ビエール・トンミー氏に背を向け、大仏へと先を歩いて行ったのだ。
「優しいね、大仏様って」
背を向けたまま、『みさを』がそう云った時、ビエール・トンミー氏は、感じた。見えてはいなかったが、彼女が涙していることが分った。
「似てるね」
と、振り向いた『みさを』の目頭が、一瞬だが光った。
「え?」
しかし、ビエール・トンミー氏は、間抜けな、気の抜けたような声しか出せなかった。
(続く)
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