「人間椅子ならぬ『人間ベッド』だ」
と、エヴァンジェリスト氏が、神妙そうな顔に微かな笑みを浮かべた。エヴァンジェリスト氏と友人のビエール・トンミー氏は、鎌倉文学館の庭園の南側にあるバラ園にいた。
「は?人間椅子?『人間ベッド』?なんだ、それ?」
ビエール・トンミー氏は、友人に翻弄されながらも、それあの言葉に対し、本能的に隠微な香りを感じ、期待を込めて質問した。
「ふふ。江戸川乱歩はなあ、人間椅子なるものを考えたのだ。椅子の中に入り、と云うか、人間が入ることのできる椅子を作り、その中に入って、椅子に座る女性の感触を皮越しに得る、というものだ」
「おお、それは、ボク向きだなあ」
「だろ。だけど、人間椅子では、江戸川乱歩のパクリとなるから、人間ベッドとするんだ。『桃怪人エロ面相』は、人間ベッドにもなるんだぞ」
「それでもパクリだと思うがな」
「嫌か?」
「いや、そういうことではないんだが」
「人間ベッドは、皮ではなく布越しだから、女性の感触をもっともっと得ることができるんだぞ。それにな、体勢からして、人間椅子よりもっと、君の全身で、そうアソコを含めて女性と密着することになるんだ」
「うーむ、それは、人間椅子より人間ベッドの方がいいな」
ビエール・トンミー氏は、体のある部分に『異変』が生じるのを自覚した。それは、『人間ベッド』を想像したからなのか、眼の前にあるバラの香りに反応したものなのかは、分らなかった。
(続く)
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