2020年9月4日金曜日

治療の旅【江ノ島/鎌倉・編】[その104]






「いや、『非情のライセンス』の原作は、生島治郎の兇悪シリーズだ」

エヴァンジェリスト氏が、友人のビエール・トンミー氏の質問に答えた。鎌倉文学館の庭園から鎌倉文学館の建物を見たエヴァンジェリスト氏は、『江戸川乱歩のドラマに出てくるような洋館だ』と云い、テレビ・ドラマ『非情のライセンス』の主演の天知茂の名前を持ち出したが、ビエール・トンミー氏は、『非情のライセンス』は、江戸川乱歩が原作なのか、疑問を呈したのだ。

「では、天知茂と江戸川乱歩に何の関係があるんだ?」

『非情のライセンス』も天知茂も江戸川乱歩も、実のところ、どうでもいいことと思いはしたものの、ビエール・トンミー氏は、頭の中の混乱が嫌で、質問を続けた。

「さすがの『博識大先生』もそのことは知らなかったのか。明智小五郎だよ」
「ああ、江戸川乱歩の少年探偵団に出てくる探偵だな」
「正確には、少年探偵団にも出てくる探偵だがな」
「なるほど、天知茂は、明智小五郎も演じていたのか」
「明智小五郎シリーズに対抗して、ボクは、『イボジ・イタカロー』シリーズも書くつもりなんだが、『天知茂樹』には、『イボジ・イタカロー』役も演じてもらう」
「その名前はなあ…でも、確か、少年探偵団には、怪人二十面相も出てきたと思うが、ボクが演じるべきは、そっちの方じゃないのか?」
「おおさすがだなあ、『博識大先生』!その通りだ。『『イボジ・イタカロー』シリーズには、敵役として、『桃怪人エロ面相』も登場する。『天知茂樹』は、つまり、君には、『桃怪人エロ面相』役もしてもらう。一人二役だ。大変だと思うが、お願いしたい」





「まあ、『桃怪人エロ面相』を演じることができるのは、ボクしかいないだろうなあ。仕方あるまい」
「その代りという訳ではないが、ご褒美的なストーリーも考えてある」

と、他人が聞いたら、呆れることを通り越したような会話を続けながら、二人は、鎌倉文学館の庭園の南側に歩を進めた。


(続く)


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