2017年1月31日火曜日

トルーマンはロドリゴなのか?【怪人たちも、復活?】




「トルーマンはロドリゴなのか?」

訳の分らないことを云う老人だ。

「トルーマンって、アメリカの大統領ですか、終戦の時の?」

中年の男は、トルーマンのことは知っているらしい。その居酒屋のカウンターでたまたま老人の隣に座っただけであったが、老人の呟きに思わず反応したようだ。

「エヴァの奴、さすがにカトリック文學を学んだだけのことはある」
「ロドリゴって何ですか?」
「君は、スコセッシの『沈黙』はまだ見ていないのか?」
「スコセッシ?」
「スコセッシも知らぬのなら話にならん!」
「トルーマンは知ってます」
「どうせ、広島、長崎に原爆を落とさせた大統領とでも思っているのであろう」
「えっ?違うんですか?」
「トルーマンは、女性や子供が標的とならぬようにと云い、対象とするには軍備施設に限る、としたという」
「そうなのですか?」
「しかし、原爆の最大効果を測ることに執着したグローブス准将は、投下目標都市として出した「京都」をトルーマンの部下で陸軍長官であるスティムソンに却下されると、広島を候補に挙げたんだそうだ。そして、『最初の原爆を広島、小倉、新潟、長崎のうちのひとつに投下せよ。2発目以降は準備ができ次第投下せよ』という原爆投下指令書が発令された、ということらしい」
「ってことは、元々の気持ちはともかくトルーマンが広島への原爆投下を命令したのでしょ?」
「いや、原爆投下指令書をトルーマンが承認した事実を示す記録は見つかっていないんだそうだ」
「ま、ま、まさか。......ということは、文民統制もなく、軍が勝手に、ということなのですか?」
「実際のところは知らぬが、トルーマンは何も決断しなかった、とも思われているようだ。まあ、文民統制なんて云ってもな」
「でも、アメリカ国民の多くは、原爆投下は多くの人を救う為に必要なことだったと思っているのでしょ?」
「トルーマン自身、その主旨の発言をしている。いや、むしろ、そこからアメリカ国民の多くが持つ原爆投下の必要性認識が生まれたのではないかと思われるようだ」
「だったら、やはり命令したのではないですか?」
「いや、トルーマンは、原爆投下後の広島の惨状を示す写真を見せられ、当初、『こんな破壊行為をした責任は大統領の私にある』と云ったのだそうだ。手紙に「後悔(regret)」したとも書いてあるようだ」
「では、何故、もう一方で、原爆投下の正当性を云ったのですか?」
「そこそこ、そこなのじゃ、エヴァンジェリストが云っておるのは」
「はあ?」
「NHKのBS1スペシャル『原爆投下 知られざる作戦を追う』を見たエヴァンジェリストは、わしに訊いてきたのだ。トルーマンはロドリゴなのか?と」
「意味が分りません。だ、か、ら、何なのですか、ロドリゴって」
「ロドリゴは、『沈黙』の中で踏み絵を踏む、つまり、『転ぶ』宣教師だ。しかし、彼は、神を棄てられぬのだ。いや、神がロドリゴを見棄てないのかもしれぬ。その表現の方が、原作者である遠藤周作の意図するところのものであるのかもしれない」
「うーむ、トルーマンは、ロドリゴのように、自身の信じるところのものを捨て、原爆投下の正当性を主張するになったものの、心の中では、彼自身も気付かないかもしれぬ心の奥底には、自身の信じるもの、いや、信じていたものが残っており、それを封印したことにより、責め苛まれていたのではないか、ということなのでしょうか?」
「き、君は一体、何者なのだ!先程までは、何も知らぬふりをしておったが、そこまでの解析ができるということは、只者ではないな」
「いえ、只者ですよ」
「んん?君、どこかで見かけたことがあるな」
「いえ、お会いしたことはありません」
「その黒眼鏡が怪しい」
「いえ、近眼なので。少し老眼も入ってきましたが」
「わしを誤魔化すことはできんぞ。夜に黒眼鏡はなかろう、なあ、怪人2号よ!
「むむ!あなたこそ、怪人1号でしょうが!」
「いや、わしはただのエロ爺だ」
「そう、エロ爺にして怪人1号、そう、ビエール・トンミー氏だな!
「いや、どこにもいるエロ爺だ」
「貴方の発言は総て記録させてもらいましたよ、ハッハッハッハ!」
「なぬ、記録だと!
「日米の国際問題になるかもしれませんよ、それが嫌だったら….」
「き、き、き、貴様あ!.....むむ、その胸ポケットに刺さった白いペンは何だ?
「ハッハッハッハ!もう、遅い!貴方にはそろそろ『怪人』を引退していただきましょうか。ハッハッハッハ!」





怪人2号と思しき中年男の高笑いに、ビエール・トンミー氏の眼は異様な動きを示した








0 件のコメント:

コメントを投稿