「ふん…マイナンバーカードがあれば、かあ。くだらんなあ」
ビエール・トンミー氏は、怒ってはいなかった。
「ええ?違うの?」
ソファで隣に座りテレビを見る夫に、マダム・トンミーが、訊いた。
「まあ、嘘ではないけどなあ」
『給付金』のニュースを見ていた。
「申請するのは、申請書が送られてくるのを待たなくてもいいんでしょ、マイナンバーカードがあれば?」
「マイナンバーカードがあればオンライン申請はできるが、マイナンバーカードがあるだけではダメなんだよ」
夫は、顔をテレビから妻の方に向け、説明した。
「ええ?どういうこと?アタシ、分んないわ」
妻は、口を尖らせた。
「(んぐっ!可愛い!)」
妻は10歳下だが、もう55歳だ。しかし、表情に少女を見せることがある。
「どういうことなの?」
「マイナンバーカードは、それがあるだけでは、そこに記憶された情報をシステムに取込めないだろう?」
「どうして?」
「いや…どうして?ったってえ」
単純な質問程、厄介だ。
「だって、番号があればいいんでしょ?」
「あのね、番号は、つまり、マイナンバーは、もう皆に割り振られてるんだ。マイナンバーカードはなくてもね。君にだってマイナンバーの通知書が来ただろ」
「そうだったかしら?でも、カードは来てないわ」
「マイナンバーカードは、申請しないと発行されないんだ」
「どうして?」
「いや…どうして?ったってえ…ううん、どうしてだろう?」
「アータにもわからないことがあるのね。番号はあるのに、『給付金』の申請に、どうしてマイナンバーカードが必要なの」
「ああ、マイナンバーカードには、ただマイナンバーが入っているだけではなく、電子証明書が入ってるんだ。それで、そのマイナンバーの真正性が担保されるんだよ」
「ううん、もう!そんなの分かんないわよお!」
妻は、両腕を上げ、両手に拳を作って、戯れるように夫を打った。
(続く)
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