(治療の旅【江ノ島/鎌倉・編】[その9]の続き)
「(そうだ…『みさを』も依存症だったんだろう)」
ビエール・トンミー氏は、過去に付き合った幾人もの女の中で、今の妻を除き、最も強烈な印象を残した女を思い出していた。
「(本当は、奥多摩に行こうと思ったんだ)」
エヴァンジェリスト氏はエヴァンジェリスト氏で、後に妻となる女性との初デートのことを思い出していた。
「(御岳山に行けば、山道で草むらがあるだろうし….)」
御岳山は、新入社員の時、会社の同期の連中と行ったことがあり、隙あれば、と想像できる場所であったのだ。
「(んぐっ!)」
後に妻となる女性にその邪な考えを察知されたのか、奥多摩行きは却下されたのであったが、今、『山道で草むらがあれば』と、また想像するだけで、エヴァンジェリスト氏の股間には『異変』が生じた。
「(ああ、ボクという男は、『病人』だというのに…)」
老人二人が、それぞれの思い出に浸りながら、江ノ島へと向うその前方で
「ハハハハ」
という笑い声がした。若い女性二人連れが、何がおかしいのか笑いながら、歩いていた。
「こんなんだったかなあ?」
その笑い声で我に返ったエヴァンジェリスト氏が、友人に尋ねる訳でもなく、独り言ちた。
「江ノ島って、駅から直ぐだと思っていたけど」
「ああ……もう少し先だよ」
と答えたものの、ビエール・トンミー氏は、前を行く若い女性二人連れの笑い声に囚われていた。
「(『みさを』もよく笑った)」
今、江ノ島へと向うこの道を、手を繋いで歩きながら『みさを』がずっと笑っていたことを思い出した。
「ああ、江ノ島だね」
エヴァンジェリスト氏の言葉通り、江ノ島大橋が見え、その先に江ノ島が見えてきた。
(続く)
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