2020年5月18日月曜日

治療の旅【江ノ島/鎌倉・編】[その10]






「(そうだ…『みさを』も依存症だったんだろう)」

ビエール・トンミー氏は、過去に付き合った幾人もの女の中で、今の妻を除き、最も強烈な印象を残した女を思い出していた。

「(本当は、奥多摩に行こうと思ったんだ)」

エヴァンジェリスト氏はエヴァンジェリスト氏で、後に妻となる女性との初デートのことを思い出していた。

「(御岳山に行けば、山道で草むらがあるだろうし….)」




御岳山は、新入社員の時、会社の同期の連中と行ったことがあり、隙あれば、と想像できる場所であったのだ。

「(んぐっ!)」

後に妻となる女性にその邪な考えを察知されたのか、奥多摩行きは却下されたのであったが、今、『山道で草むらがあれば』と、また想像するだけで、エヴァンジェリスト氏の股間には『異変』が生じた。

「(ああ、ボクという男は、『病人』だというのに…)」

老人二人が、それぞれの思い出に浸りながら、江ノ島へと向うその前方で

「ハハハハ」

という笑い声がした。若い女性二人連れが、何がおかしいのか笑いながら、歩いていた。

「こんなんだったかなあ?」

その笑い声で我に返ったエヴァンジェリスト氏が、友人に尋ねる訳でもなく、独り言ちた。

「江ノ島って、駅から直ぐだと思っていたけど」
「ああ……もう少し先だよ」

と答えたものの、ビエール・トンミー氏は、前を行く若い女性二人連れの笑い声に囚われていた。

「(『みさを』もよく笑った)」

今、江ノ島へと向うこの道を、手を繋いで歩きながら『みさを』がずっと笑っていたことを思い出した。

「ああ、江ノ島だね」

エヴァンジェリスト氏の言葉通り、江ノ島大橋が見え、その先に江ノ島が見えてきた。


(続く)



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