2020年5月10日日曜日

治療の旅【江ノ島/鎌倉・編】[その2]






「お、元気そうじゃないか」

天使の声は、振り向いたエヴァンジェリスト氏に向け、口角と共に自慢の口髭を上げた。

「おー!」

エヴァンジェリスト氏も、『病人』らしくない快活さで応えた。

「もっと病人なのかと思っていたのに」

友人のビエール・トンミー氏のその言葉に、エヴァンジェリスト氏は、期待にそぐわないよう、途端に項垂れ、目を伏せてみせた。

「おお、おお、いいぞ!その調子!」
「そうかあ?」

一瞬、視線を友人の方に上げたが、直ぐにまた目を伏せ、一足しかないカジュアルな革靴を見た。

「おお、病人は、それでなくっちゃ!」
「ああ…」

今度は、視線は上げず、両肩を落として見せた。




「そうか、そうか、病んでるんだな」
「ああ、ボクは病人だ」

まだ通勤客で混雑する相模大野駅のホームで向い合う2人の老人を、勤め人たちは巧みにかわして行く。

「ま、取り敢えず、乗ろか」

ビエール・トンミー氏は、友人のエヴァンジェリスト氏をリードして、片瀬江ノ島行の小田急線の車両に乗り、友人と並んで席に座った。

「よ、病人!話を聞くぞ」


(続く)



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