「ええー!アータ、何、云ってるのお!?」
マダム・トンミーは、ソファで隣に座る夫に体当たりを食らわした。
「ううーっ!」
ビエール・トンミー氏は、ソファに仰向けに倒れ、そこに妻の体が覆いかぶさった。
「んぐっ!んぐっ!んぐっ!」
夫の胸を押し付ける妻の柔らかい『胸』が『凶器』となり、ビエール・トンミー氏の股間を若き日の『原宿の凶器』と化した。
「どういうことなの!ちゃんと説明して!」
「うう…うう…持ってないんだ…」
妻の体の重みと自らの股間の『異変』とで呻きながら、ビエール・トンミー氏は、説明を始めた。
「ボクは、マイナンバーカードを持っていないんだ」
「ええ?」
驚いた妻は、身を起こした。
「アータ、何云ってるの!アタシ、怒るわよ!」
もう怒っているではないか、とは思ったが、賢明な夫は、それを口にはしない。
「アータ、どうしてマイナンバーカードを持ってないのよお!?」
「マイナンバーカードなんて必要ないのさ」
「だって、皆、持ってるんじゃないの?」
「いや、マイナンバーカードの普及率なんて14%くらいのもんなんだ」
「あら、そうなの?」
「まあ、エヴァの奴は、持ってるみたいだけどね」
「え?エヴァンジェリストさん、持ってるの?どうして?」
「アイツは、運転免許証を持ってないからだよ」
「どういうこと?」
「身分証明書として、マイナンバーカードを取得したんだ」
「あら、マイナンバーカードって身分証明書になるの?」
「お役所では勿論、有効だが、少し前までは、銀行や携帯電話会社なんかによっては、マイナンバーカードでは本人確認とはならなかったみたいだけど、今は大丈夫のようだ」
「じゃ、エヴァンジェリストさん、身分証明書を持てて便利ね」
「マイナンバーカードで、コンビニのマルチ・コピー機で住民票の交付もされて便利だとも云ってたなあ」
「だったら、アータもマイナンバーカード持てばいいじゃない!」
妻は、自分のその言葉が、夫の怒りに火をつけるとは思わなかった。
(続く)
0 件のコメント:
コメントを投稿