2020年5月14日木曜日

治療の旅【江ノ島/鎌倉・編】[その6]






「ソイツは、どうしてヘッドセットをしてるんだ?」

ビエール・トンミー氏は、片瀬江ノ島行の小田急線の車両に並んで座るエヴァンジェリスト氏に訊く。エヴァンジェリスト氏の上司は、仕事中、ヘッドセットをしているのだ。

「ヘッドセットって、普通、コールセンターなんかで使うものだろう?」
「ああ、今は、『コンタクトセンター』と云うらしいが」
「はああ?なんだ、それは?知らんぞ、『コンタクトセンター』なんて」
「まあ、コールセンターなんだが、今は、受付は電話だけではなく、メールなんかでの問合せや申込みもあるから、『コンタクトセンター』と云うようになったらしい」
「ふん!知ったことか!世の中では、コンタクトセンターと云っても通じないぞ。最近、どいつもこいつも、勝手な言葉ばかり作りやがって!」
「ボクもそうは思うが…」
「で、ソイツは、コールセンターにいるんじゃないだろ?」
「ああ、ボクと同じで、普通のオフィスにいる」
「じゃ、どうしてヘッドセットなんかするんだ?」




「うーん…電話しながら、パソコン操作もできるから便利だと云っている」
「バカじゃないか!便利かどうか知らんが、普通のオフィスでヘッドセットをつけてる奴なんか、見たことないぞ」
「ボクも初めて見た」

ビエール・トンミー氏は、自分の隣に座っているOLが、2人の会話を聞いて、少し吹いたことに気付いたが、構わず、怒りの言葉が友人にぶつけた。

「じゃ、止めさせろ!」
「いや、止めさせるどころか、逆に、部下たちに、ヘッドセットを付けることを勧めている」
「まさか!で、君は付けたのか?」
「付ける訳ないだろ」
「ああ、それでこそ、ボクの友だちだ。付けたら、いいか、友だち辞めるからな」
「ヘッドセットして奴は、こちらからすると、オフィスの前に座っている者に話しかけているのか、電話しているのか、分からん」
「本当に妙な奴だな、そのヘッドセット野郎は」
「妙なのは、ヘッドセットをしていることだけではないんだ」


(続く)



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