2020年5月28日木曜日

治療の旅【江ノ島/鎌倉・編】[その20]






「これ、くぐるか?」

ビエール・トンミー氏は、江島神社『邊津宮』にある緑の大きな輪を指して、友人を誘った。




「なんだ、これ?」

エヴァンジェリスト氏は、その緑の大きな輪を覗き込むようにして訊いた。

「『芽の輪』だ。他の神社でもあるだろう?」
「うーむ、そういえば、見たことがあるような気がしなくもない」
「『芽の輪』をくぐるといいんだぞ」
「何がいいんだ?」
「心の穢れが清められ、厄除けになるんだ」
「おお!穢れが清められるのか!それは、君にぴったりだな。西洋美術史の研究は、純粋に学問的好奇心からだ、なんぞという大ウソを平気で云ってるんだからな」

エヴァンジェリスト氏は、友人がオープンカレッジで西洋美術史を受講するのは、美人講師目当てであることを知っていたのだ。

「何をほざく!君こそ、会社への不満が、心の中でどす黒く渦巻いているんだから、『芽の輪』くぐりをして清めるがいいだろう!」

と、互いを罵り合いながら、先ずは、エヴァンジェリスト氏が『芽の輪』をくぐり、ビエール・トンミー氏が続いたが…

「うっ!」

『芽の輪』をまたいだ時、ビエール・トンミー氏は、思わず、軽く呻いてしまった。

「んん?どうした?穢れきった心が痛んだのか?」

と、嬉しそうにエヴァンジェリスト氏が訊いた。

「いや、ちょっと脚を開き過ぎて痛かっただけだ」

と、誤魔化したビエール・トンミー氏は、『みさを』のことを思い出していたのだ。

「(『みさを』とも、ここで『芽の輪』くぐりをしたのだ。その時、ボクはまだ彼女の本当の姿を知らなかった。『みさを』は、この『芽の輪』をくぐる時、心が痛んだのだろうか?...いや!違う!『みさを』が、実は『みさを』ではなかったとしても、彼女の心は清かったのだ…)」


(続く)


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