(治療の旅【江ノ島/鎌倉・編】[その10]の続き)
「いいよ、いいよ、ポーズをとって」
エヴァンジェリスト氏に促され、ビエール・トンミー氏は、両手を腰に当てた。
「よ!色男!」
ビエール・トンミー氏は、江ノ島大橋の手前にある『名勝史跡江ノ島碑』の前に立っていた。
「じゃあ、撮るよお」
エヴァンジェリスト氏は、iPhone5sのボタンを押した。
「被写体がいいと、やっぱりいい写真が撮れるねえ」
「おお、そうか、そうかあ」
ビエール・トンミー氏は、エヴァンジェリスト氏のiPhone5sの画面を覗き込み、今撮られたばかりの自分の写真を確認した。しかし、その写真が、別の写真を思い出させた。
「(あの写真は、どこに行ったのだろう…)」
『みさを』と江ノ島に来た時、この『名勝史跡江ノ島碑』の前で二人の写真を通りすがりの人にとってもらったのだ。
「(『みさを』は、眩しそうに眉を八の字にしていた)」
今は行方知らずとなった写真の『みさを』を思い出す。
「(いや、あれは、眩しかったんではなく、泣きそうだったのかもしれない)」
何が悲しかったのかは分らないし、本当に泣きそうだったのかも定かではないが、楽しいデートでのスナップ写真に、後になって、恋人の真の姿が映し出されているように感じ取ったのであった。
「どうした?」
自らの写真を見て沈黙した友人を訝しく思ったエヴァンジェリスト氏が、訊いた。
「いや、色男も歳をとったなあ、と思ってね」
「んなことないよ。君は若い頃と変わらず、ダンディだ」
『病人』の自分を心配し、この『旅』に連れ出してくれた友人をエヴァンジェリスト氏は、褒め讃える。
「おお、そうか、そうか、そうだろう!」
ビエール・トンミー氏は、江ノ島大橋に向けて歩き出した。
(続く)
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