(治療の旅【江ノ島/鎌倉・編】[その6]の続き)
「仕事中、頭からパンツでも被っているのか?」
片瀬江ノ島行ではあるが、まだ通勤時間帯の小田急線の車両に並んで座る友人に、ビエール・トンミー氏は、聞くも恥ずかしい言葉を放った。友人の上司で、普通のオフィスで仕事中、ヘッドセットをしている男の、ヘッドセットをしていること以外の妙な点を想像したのだ。
「へ!?」
エヴァンジェリスト氏も驚いたが、ビエール・トンミー氏の隣に座っているOLも、思わず口を開けたままとした。
「いや、それは、『パンツ頭巾』だろ。斉藤由貴の不倫相手の医者だろ」
赤面しながらも、エヴァンジェリスト氏は、ビエール・トンミー氏の誤解を正した。
「では、他にどんなところが妙なんだ、そのヘッドセット野郎は?」
「初めて会ったお客様に、いきなり今期中に契約して下さい、とお願いするんだ」
「んん?理解できん。どういうことだ?」
「ボクの担当で契約してもらえるはずであったお客様があった。しかし、社内事情で契約は来期以降となったそのお客m様のところに、あの男は、一緒に行く、と云い出したんだ。事情、状況は説明したが、どうしても行く、と云ってきかないから、仕方なく一緒に行った。そうしたらだ。会って、名刺交換すると直ぐに、今期中に契約して下さい、とお願いしたのさ」
「はああ?」
「お客様は、それはもう、びっくりしてしばらく何も云えなかったが、勿論、無理だ、と云われた。後で、そのお客様には、電話して謝っておいたが」
「ヘッドセット野郎は、妙なだけではなく無礼な奴だなあ」
「営業はただ強引にすればいい、と勘違いしている」
「そういうことかあ。まあ、前から酷いとは聞いていたが、そのヘッドセット野郎が上司になったから、君は病むことになったのか?」
「あの男の存在も一因ではあると思うが、それだけではない」
と云うと、エヴァンジェリスト氏は、視線を電車の床に落した。
(続く)
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