「おお、そうだ。大変や。大変なことや。『づぼらや』が閉店になんねん!」
FaceTime(ビデオ通話)でビエール・トンミー氏がエヴァンジェリスト氏にぶつけてきた怒りは、『多目的トイレ』での『行為』のことではなかったのだ。
「なんや、『づぼらや』って?」
「『づぼらや』のフグ、『かに道楽』のカニ、それと『食い倒れ太郎』。これぞ大阪三点セットやないか。『づぼらや』がのーなったら大阪とちゃうで。シンちゃんは、マスクなんか配りょる場合とちゃうで。早う持続化給化付金を届けて『づぼらや』助けんかい!」
「すまん。フグの店か。ボクは、『づぼらや』とやらを知らなかった。まあ、持続給付金の支給遅れについては、政府も『真摯に受け止めている』だろう。受け止めているだけだろうが」
「何云うとんねん。『づぼらや』のある風景は世界遺産に指定せんとアカンで。通天閣も併せてや」
「持続化給付金については、申請初日にオンライン申請をしても一向に支給されず、後から、書類に不備があるとされたが、実は申請が殺到し、サーバーがパンクしたことで不備がないのに不備となっているという話を聞いたことがある」
「そんなん、言い訳になるかい!初日にアクセスが殺到するくらい想定すんのが当り前やろ!なに、アホンダラなシステムを作ってんねん!『ロードバランサー』は勿論、『CDN』を入れておくとか、対策をとっておかんとあかんやろが!申請する企業側は、命がかかってんねんやぞ」
「おお、さすがだ。日本を代表する企業のIT担当をしていただけのことはあるなあ。今は、ただの変態爺いだが」
「ワテのことなんかどうでもええねん。とにかく『づぼらや』をなんとかして助けてやらんかい」
「『づぼらや』だけではなく、全国で幾つも老舗が店を閉めてきているみたいだ。老舗だけではなく、沢山の店や会社が、倒産したり、廃業したりしているようだ」
「他は知らん。とにかく先ずは、『づぼらや』助けんかい!」
「『づぼらや』って、そんなにいい店なのか?」
「あそこの『てっちり』は天下一品や」
「君は、『づぼらや』の常連だったのか?」
「はあ?行ったことないで」
「ええ!?」
「大阪には人生で5回位しか行ったことないで。新世界も道頓堀もキタもミナミもどこにあるのか分からへん。阪神が優勝した時に馬鹿が飛び込む橋の場所も知らんで」
「な、なんだ!『ナンパ橋』も知らんのか!」
「梅田と新大阪の違いも分からへん」
「君は、行ったこともない店のことで怒ってるのか」
「あれ?梅田と大阪やったかいな」
「行ったこともない店のことどころか、大阪のことなんも知らないんだな。それでよく関西弁使っているな。まあ、相当に胡散臭い関西弁だが」
「ワテの言葉は関西弁とチャウで。『カーネーション弁』や。NHKの朝ドラ『カーネーション』で学んだ『カーネーション弁』や」
「君は、岸和田にも行ったことないだろ。ボクは、出張で、何回も行ったぞ」
「岸和田は、ワテの心の町なんやで。この心境は『カーネーション』を通しで三回観たワテしか分からへんで。あと半年もすればNHKオンデマンド見放題でまた観ちゃるんや。そのワテにとっては、岸和田だけやのうて、大阪全体が心の町なんや。その心の町の宝、『づぼらや』がのうなることは耐えられへんねん!」
「似非だが関西人を自負する君としては、許せないんだな」
「当たり前や。『プロの旅人』は、世界に発信しとるクオリティ・ブログやろ。ここで書くと世界を動かせるんやろ。アンサンから『プロの旅人』氏に頼んで、『づぼらや』救済について書いてもろうたら、CNNやBBCか取材に来て、世論も動くかもしれへん」
「いや、『プロの旅人』氏に頼めばいいだろ。君だって、『プロの旅人』氏の友人だろ?」
「『プロの旅人』氏は確かに、ワテとアンサンの共通の友人や。せけど、アンサンの方が、『プロの旅人』氏とは一心同体と云っていい程、親しいやないか。頼むでえ。せやないと…」
「ああ?...要するに『づぼらや』に行ったことはないんだな…ボクは眠いから、そろそろ切るぞ」
と、何故か、エヴァンジェリスト氏は、慌ててFaceTimeの終了ボタンを押した。
(おしまい)
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