(治療の旅【江ノ島/鎌倉・編】[その26]の続き)
「もうここはいいな。さあ、行くぞ」
と云うと、ビエール・トンミー氏は、友人の返事を聞かず、江ノ島の展望ウッドデッキから離れ、『エスカー』の第2区間の乗り場の方に戻って行った。
「(アイツの治療の為にここに来たのに、どうして、ボクが自分の心の傷を思い出さないといけないんだ!)」
ビエール・トンミー氏は、エヴァンジェリスト氏の無意識な無神経に苛立っていた。
「おいおい、待てよ」
何も知らぬエヴァンジェリスト氏は、ビエール・トンミー氏の後を追った。
「(ボクは、どうして江ノ島なんかに来てしまったんだろう…?)」
『エスカー』に乗りながら、ビエール・トンミー氏は自問した
「(エヴァの奴の病を癒してやる為だ…が)」
しかし、ビエール・トンミー氏は、『己を見る男』であった。自分を誤魔化すことはできなかった。
「(...ああ、エヴァの為は、嘘ではないが、ボクは辿りたかったんだ。エヴァの奴にかこつけて)」
『エスカー』で第3区間の終点まで行くと、そこは、『サムエル・コッキング苑』であった。植物園があり、温室の遺構もあった。
「おー、なんだか、ローマの遺跡のような感じでもあるなあ」
という友人の素直な感想が、ビエール・トンミー氏の神経を更に逆撫でする。
「(お前は、いつから『みさを』になったんだ!?)」
そうだ。『みさを』もエヴァンジェリスト氏と同じ感想を云ったのだ。
「ねえ、ビー ちゃん、なんだか、ローマの遺跡みたい」
(続く)
0 件のコメント:
コメントを投稿