2020年6月4日木曜日

治療の旅【江ノ島/鎌倉・編】[その27]






「もうここはいいな。さあ、行くぞ」

と云うと、ビエール・トンミー氏は、友人の返事を聞かず、江ノ島の展望ウッドデッキから離れ、『エスカー』の第2区間の乗り場の方に戻って行った。

「(アイツの治療の為にここに来たのに、どうして、ボクが自分の心の傷を思い出さないといけないんだ!)」

ビエール・トンミー氏は、エヴァンジェリスト氏の無意識な無神経に苛立っていた。

「おいおい、待てよ」

何も知らぬエヴァンジェリスト氏は、ビエール・トンミー氏の後を追った。

「(ボクは、どうして江ノ島なんかに来てしまったんだろう…?)」

『エスカー』に乗りながら、ビエール・トンミー氏は自問した

「(エヴァの奴の病を癒してやる為だ…が)」

しかし、ビエール・トンミー氏は、『己を見る男』であった。自分を誤魔化すことはできなかった。

「(...ああ、エヴァの為は、嘘ではないが、ボクは辿りたかったんだ。エヴァの奴にかこつけて)」

『エスカー』で第3区間の終点まで行くと、そこは、『サムエル・コッキング苑』であった。植物園があり、温室の遺構もあった。

「おー、なんだか、ローマの遺跡のような感じでもあるなあ」

という友人の素直な感想が、ビエール・トンミー氏の神経を更に逆撫でする。




「(お前は、いつから『みさを』になったんだ!?)」

そうだ。『みさを』もエヴァンジェリスト氏と同じ感想を云ったのだ。

「ねえ、ビー ちゃん、なんだか、ローマの遺跡みたい」


(続く)



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