(治療の旅【江ノ島/鎌倉・編】[その40]の続き)
「ふん!そんなこと云うものか」
『出張で搭乗した飛行機の機内で、Mac好きのCAに話しかけられたら、WinodwsからMacに切替えるなら手伝う、と云って、お近付きになればいい』と云ってきたビエール・トンミー氏に、エヴァンジェリスト氏は、鼻で息を吐き、強く否定した。
「勿体ないことをするなあ」
江ノ島の『シーキャンドル』の展望デッキで、ビエール・トンミー氏は、右手の甲で涎を拭った。
「君は、機内でPCを使っている時に、『Windowsですか?』とCAに声を掛けられたことはないのか?」
友人の濡れた手の甲に眼を遣り、エヴァンジェリスト氏は、口の端を歪めながら、質問を発した。
「ええっ!?」
動揺したビエール・トンミー氏は、自らの体を展望デッキの手摺で支えた。
「『Windowsって、どうしてPDFファイルを加工できないんですか?!』なんて、絡まれはしなかったか?」
「うっ…どうして、それを…いや、そんなことはないさ」
眼が泳ぐのを悟られぬよう、ビエール・トンミー氏は、景色を見る振りをして、友人に背を向けた。
「ふふん、図星だな。『いきなりPDF』を使えばいい。ボクが貴女のPCにイレてあげましょう、とでも云って、CAが泊るホテルの部屋に入り込んだのだろう。君は、小学生の頃から『琴芝のジェームス・ボンド』という異名も持つ美貌の持ち主だ。CAとそういう関係になってもおかしくはない」
「ち、ち、違う!いや、あれは…」
「何が違うんだ?ホテルの部屋でなければ、高層ビルの多目的トイレでイレたのか?何しろ『多目的』なトイレだからな」
(続く)
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