2020年6月9日火曜日

治療の旅【江ノ島/鎌倉・編】[その32]






「お、どうした?妊娠でもしたか?」

友人の嘔吐きに対して、余りにも巫山戯た言葉を吐いたことをエヴァンジェリスト氏は、後悔することになった。

「おい!さっきから、他人のおしっこ事情に執着しているが、おしっこをちびっているのは、自分じゃないのか?!」

江ノ島の『サムエル・コッキング苑』を歩きながら、ビエール・トンミー氏は、エヴァンジェリスト氏に向けてまくし立て始めた。

「君の白いブリーフは、真っ黄色になってるんじゃないのか!?君とボクとは同級生だ。同い年だ。いや、正確には君の方が半年年寄りだ。君の方こそ、頻尿なんだろう。夜、2時間おきに目が覚めるんじゃないのか。でも、直ぐにはおしっこは出ないし、出てもチビチビなんだろう!」




側を歩いていた若い女性二人連れが、おしっこ、頻尿、と叫ぶ老人たちに眉を顰めた。

「どうだ、図星だろう!このちびりジジイ!」

ビエール・トンミー氏の口から飛んだ唾が、エヴァンジェリスト氏の左頬に付いた。

「……」

左手で頬を拭ったエヴァンジェリスト氏は、力無い眼で前方を見るだけであった。

「おい、どうした?余りに図星過ぎたか?」

ビエール・トンミー氏は、言い過ぎたか、と思った。

「いやいや、君だけじゃないさ。歳をとると誰だって、おしっこは近くなるさ。うん、正直なところ、ボクは、今日もここで少しパンツにチビった…」

若い女性二人連れは、二人共に、鼻をつまんで、老人たちから離れて行った。

「…違う…」

エヴァンジェリスト氏が、ようやく口を開いた。


(続く)



0 件のコメント:

コメントを投稿