(治療の旅【江ノ島/鎌倉・編】[その31]の続き)
「お、どうした?妊娠でもしたか?」
友人の嘔吐きに対して、余りにも巫山戯た言葉を吐いたことをエヴァンジェリスト氏は、後悔することになった。
「おい!さっきから、他人のおしっこ事情に執着しているが、おしっこをちびっているのは、自分じゃないのか?!」
江ノ島の『サムエル・コッキング苑』を歩きながら、ビエール・トンミー氏は、エヴァンジェリスト氏に向けてまくし立て始めた。
「君の白いブリーフは、真っ黄色になってるんじゃないのか!?君とボクとは同級生だ。同い年だ。いや、正確には君の方が半年年寄りだ。君の方こそ、頻尿なんだろう。夜、2時間おきに目が覚めるんじゃないのか。でも、直ぐにはおしっこは出ないし、出てもチビチビなんだろう!」
側を歩いていた若い女性二人連れが、おしっこ、頻尿、と叫ぶ老人たちに眉を顰めた。
「どうだ、図星だろう!このちびりジジイ!」
ビエール・トンミー氏の口から飛んだ唾が、エヴァンジェリスト氏の左頬に付いた。
「……」
左手で頬を拭ったエヴァンジェリスト氏は、力無い眼で前方を見るだけであった。
「おい、どうした?余りに図星過ぎたか?」
ビエール・トンミー氏は、言い過ぎたか、と思った。
「いやいや、君だけじゃないさ。歳をとると誰だって、おしっこは近くなるさ。うん、正直なところ、ボクは、今日もここで少しパンツにチビった…」
若い女性二人連れは、二人共に、鼻をつまんで、老人たちから離れて行った。
「…違う…」
エヴァンジェリスト氏が、ようやく口を開いた。
(続く)
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