(治療の旅【江ノ島/鎌倉・編】[その47]の続き)
「違いますうっ!」
江ノ島の『シーキャンドル』の展望デッキで、『みさを』が、口から唾を飛ばした。ビエール・トンミー氏に写真を撮ってもらった二人連れの若い女性たちから『常盤貴子』と思われたのだ。
「常盤貴子なんて人知りません!人違いですっ!」
文字通り眦をつり上げた『みさを』は、ビエール・トンミー氏が見たことのない表情を見せた。
「行くわ、ビーちゃん!」
と、『みさを』は、ビエール・トンミー氏の手を取ると、展望デッキの出口に向った。
「あ、あ、あー……」
『みさを』の剣幕に立ち竦む二人連れの若い女性たちの方に顔を残しながら、ビエール・トンミー氏は、『みさを』に引きずられて行った。
「……」
『みさを』は何も云わない。
「『みさを』…」
ビエール・トンミー氏は、体を傾けたまま、『みさを』を呼んだ。
「おいおい、なんだ?『みさを』って?」
突然、エヴァンジェリスト氏の声がし、ビエール・トンミー氏は、『今』に戻った。
「んん?『みさを』、ああ、『アナターのタメーニー』だ」
歌ったことのない演歌が、口から出た。『なみだの操』という曲名も知らなかったのに。
「殿様キングスか。『マモリートーシタ、オンナーノミサオ』だな。ん?でも、なんで、ここで殿様キングスなんだ?」
エヴァンジェリスト氏は、素直な疑問を口にした。
(続く)
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