2020年6月7日日曜日

治療の旅【江ノ島/鎌倉・編】[その30]






「アタシなんか…」

江ノ島の『LON CAFE』の『French Toast』を食べる手を止めた『みさを』は、『French Toast』に目を据えたまま、口を尖らせ、小声で何をを云った。

「……ないわ」

『相応しくないわ』と聞こえたように思ったが、その意味を測りかねたビエール・トンミー氏は、少しく顔を曇らせ、訊いた。

「え?美味しくない?」
「ううん…美味しいわ。こんなの食べたことないわ」
「なーんだ。そう云ったのか」

ビエール・トンミー氏は、笑顔に戻り、キャラメルシナモンの『French Toast』を頬張った。

「ああ、ビーちゃん。ついちゃってるよお」




笑顔を取戻した『みさを』は、向いに座るビエール・トンミー氏の顔に右手を伸ばし、彼の口の端についた生クリームを中指で拭うと、その指を自らの口に入れ、吸うように舐めた。

「んぐっ!」

ビエール・トンミー氏が、『French Toast』を食べる手を止め、己の股間に当てた。

「どうした?また、おしっこか?」

『病人』らしくない『病人』の友人の声が、ビエール・トンミー氏を現実に戻した。


(続く)



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