(治療の旅【江ノ島/鎌倉・編】[その29]の続き)
「アタシなんか…」
江ノ島の『LON CAFE』の『French Toast』を食べる手を止めた『みさを』は、『French Toast』に目を据えたまま、口を尖らせ、小声で何をを云った。
「……ないわ」
『相応しくないわ』と聞こえたように思ったが、その意味を測りかねたビエール・トンミー氏は、少しく顔を曇らせ、訊いた。
「え?美味しくない?」
「ううん…美味しいわ。こんなの食べたことないわ」
「なーんだ。そう云ったのか」
ビエール・トンミー氏は、笑顔に戻り、キャラメルシナモンの『French Toast』を頬張った。
「ああ、ビーちゃん。ついちゃってるよお」
笑顔を取戻した『みさを』は、向いに座るビエール・トンミー氏の顔に右手を伸ばし、彼の口の端についた生クリームを中指で拭うと、その指を自らの口に入れ、吸うように舐めた。
「んぐっ!」
ビエール・トンミー氏が、『French Toast』を食べる手を止め、己の股間に当てた。
「どうした?また、おしっこか?」
『病人』らしくない『病人』の友人の声が、ビエール・トンミー氏を現実に戻した。
(続く)
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