2020年6月19日金曜日

治療の旅【江ノ島/鎌倉・編】[その40]






「おおー!」

江ノ島の『シーキャンドル』の展望デッキに出たエヴァンジェリスト氏が、思わず叫んだ。

「空はこんな広かったのか!」

両手を手すりに置き、顎を上げ、顔に風を受けた。

「君は、いつも空を飛んでいたくせに」

ビーエル・トンミー氏は、友人が20年余り、連日のように飛行機に乗り、まさに北海道から沖縄まで国内出張をしてきたことを知っていた。

「ああ、羽田空港は自分の庭のようなものだった。飛行機に乗るのは、山手線に乗るくらいの感覚だった」




「飛行機の窓から空を見なかったのか?」
「最初の頃は窓側の席を取って、空や眼下の陸地を見ていた。だが、幾度も飛行機に乗っていると、それも飽きた」
「ボクは飛行機に乗ると、ルンルンで窓の外を見ているぞ」
「窓側の席は、到着後、出るのに時間がかかるし、狭いから、通路側の席を取るようになった。それも、中央列の右端の席を取るようにした。機内で、PowerBooやiBook、MacBookProなんかを開いて、仕事をしていたからだ。その席だと右手側に空間があって、キーボードを打ち易いんだ」
「さすが、君も『プロの旅人』だな」
「だが面倒なこともある。CAに話しかけられるんだ」
「むむっ。どういうことだ?」
「『iBookですか?』とか『Macですか?』とか云ってくるんだ」
「な、な、なんと!」
「『いいですねえ』と云って、横に立ったまま、こっちを凝視めて離れないんだ」
「おおー!」
「『Windows使ってるんですけど、iBookに切換えようかと思って……..でも、何か、勇気がなくって…….』とも云ってたな」
「『機会があれば、切替えて下さい』とでも云ってやればいい」
「ああ、そう云った」
「『機会があれば私がセットアップもお手伝いしますし、その後も分らないことがあればサポートしますよ』と云って、お近付きにならなかったのか?」




(続く)


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