「iBookですか?」
2002年11月8日、長崎を11:35発のJAL184便の機内で、エヴァンジェリスト氏は、スチュワーデス(CA)に、そう声を掛けられた。
「ええ」
「いいですよねえ。アタシ、迷ったんです。Windows使ってるんですけど、iBookに切換えようかと思って……..でも、何か、勇気がなくって…….」
「ああ」
「いいんでしょう?」
「ええ、いいですよ」
「使い易いんですよね。使っている人に訊くと皆、そう云うんですう」
『ですう』というスチュワーデス(CA)の言葉遣いは、もうスチュワーデス(CA)のそれではなく、恋人に対して、とまではいかないものの、親しい人に対する物の言いようであった。
「使い易いんですよね。使っている人に訊くと皆、そう云うんですう」
「ええ、使い易いですよ。全然違います」
「ですよねえ。いいなあ」
スチュワーデス(CA)は、完全に自分の立場を忘れていた。彼女の姿を見ず、その言葉を聞いただけであれば、周囲の乗客は、OLが憧れの上司に甘えている、と思ったであろう。
「機会があれば、切替えて下さい」
「ええ…………」
機会があれば私がセットアップもお手伝いしますし、その後も分らないことがあればサポートしますよ、とは、常識を持ち、理性のあるエヴァンジェリスト氏は云わなかった。
「ええ…………」
と云ったまま、スチュワーデス(CA)は、エヴァンジェリスト氏の席の横にまだ立ったままでいた。
(続く)
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