シショー・エヴァンジェリストとエヴァンジェリスト氏とが、一緒に地方に出張した往路便の飛行機の機内で、二人は並んで座っていた。
折角、『シショー’s シート』(スチュワーデス(CA)が座る席の向いの席)に座っていたのに、その時、シショーは、前を見る余裕がなかった。
「エヴァちゃん、ここなんだけどさあ…..」
とか、
「ここは、これでいいの?」
とか、
「ここのところ、どうして……」
と、フライトの間中、エヴァンジェリスト氏に質問ばかりしていたのだ。
シショーは、部下ではあるがエヴァンジェリスト氏に『講演』の内容、仕方について、教えてもらっていたのだ。
エヴァンジェリスト氏は、営業だが、『講演』もしていた。今も(2017年)、『講演』活動をしている。
取扱商品に関連した『講演』を、その商品を購入されたお客様社員向けに行なっているのだが、その『講演』をシショーもされることになったのだ。
二人の前には、席に着いたスチュワーデス(CA)が美脚を見せ、二人の方を見て、微笑みを浮かべていたが、シショーは何もご覧になっていないし、何も感じてはいらっしゃらない。
「もったいない」
エヴァンジェリスト氏は、そう思った。
「ふうう……そうかあ……..」
シショーは、まだ『講演』の自信がないようであった。
「ここのところ、どうして……」
そうしている内に、飛行機は目的地の空港に着陸した。
「ふうう……….」
目的地の空港に着陸し、ベルト着用サインが消えると、シショー・エヴァンジェリストは、資料をたたみ、ため息をついた。
「エヴァちゃん、有難う」
「いいえ、大丈夫ですか?」
「まあ、なんとかなるさ」
二人は立ち上がり、席の上の手荷物入れからそれぞれ鞄を取り出した。
シショーは、鞄を席に置くと、
「ふうう……….」
と、再び、ため息をつくと、鞄を開けた。
そして、シショーが、ゆっくりと資料をその中に入れようとしていた時であった。
「試験ですか?」
二人の前にいたスチュワーデス(CA)が、エヴァンジェリスト氏に声を掛けてきた。
エヴァンジェリスト氏は、以前、多分、同僚の機長と勘違いされてか、スチュワーデス(CA)から声を掛けられたことがあった。
しかし、その時の、
「試験ですか?」
は、人違いして声を掛けたものではなかった。
スチュワーデス(CA)は、ビジネス・スマイルではないスマイルを頬に浮かべ訊いてきたのだ。
「試験ですか?」
「あ、いえ、そうではないんですが」
「大変ですねえ。ふふ」
「ええ、まあ」
「お疲れ様でした。ふふ」
スチュワーデス(CA)は、もっとエヴァンジェリスト氏と話したい様子であったが、その時、出口の扉が開いた。
邪心のないエヴァンジェリスト氏であったが、その時のスチュワーデス(CA)の『異変』に気付かないではなかった。
スチュワーデス(CA)は、エヴァンジェリスト氏をどんな男と思っていたのであろうか?
(続く)
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