「iBookですか?」
と、声を掛けてきたスチュワーデス(CA)は、エヴァンジェリスト氏に、続けて訊いた。
「使い易いんですよね。使っている人に訊くと皆、そう云うんですう」
「ええ、使い易いですよ。全然違います」
「ですよねえ。いいなあ」
「機会があれば、切替えて下さい」
「ええ…………」
機会があれば私がセットアップもお手伝いしますし、その後も分らないことがあればサポートしますよ、とエヴァンジェリスト氏が云うことを期待していたのか、
「ええ…………」
と云ったまま、スチュワーデス(CA)は、エヴァンジェリスト氏の席の横にまだ立ったままでいた。
2002年11月8日、長崎を11:35発のJAL184便の機内でのことであった。
「やっぱりいいですよねえ。いいなあ」
未練がましくそう云うと、スチュワーデス(CA)は、ようやくエヴァンジェリスト氏の側を離れた。
前方に向いながら、スチュワーデス(CA)は振り返り、iBookを見て(いや、エヴァンジェリスト氏を見て、であったであろう)、
「ふふ」
と、声は出さず微笑んだ。
エヴァンジェリスト氏が出張に持ち歩く白いiBookは使い易いだけでなく、美しいものであった。スチュワーデス(CA)が羨ましがるのも無理はない。
黒いPowerBookを持ち歩いていた時にもやはり、スチュワーデス(CA)から、
「こんな奇麗なキーボード見たの初めてです」
等と声を掛けられたことは幾度かあったが、白いiBookはもっと美しかった(今=2017年のMacBookProやMacBookはもっと美しいけれど)。
エヴァンジェリスト氏は、レンタル期限切れで、会社用のiMacと出張用のPowerBookとを、それぞれ新iMacとiBookとに切替えたところであったのだ。
会社の皆は、エヴァンジェリスト氏のMacのことをなんだかんだとケチをつけていた。
Windowsの方が普及している、とか、Windowsの方がソフトウエアが多い、等と云う(Windowsの方が使い易い、とか、きれいだとは云わない)。
しかし、皆の本心は実は、
「iBookですか?」
と、エヴァンジェリスト氏に声を掛けてきたスチュワーデス(CA)と同じなのかもしれない。
本当は、その美しさ、使い易さに惹かれているのに、ただ切替える勇気を持てないだけなのかもしれなかった。
(続く)
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