2017年11月21日火曜日

「iBookですか?」[その15](垂涎のエヴァンジェリスト氏)



「iBookですか?」

と、声を掛けてきたスチュワーデス(CA)は、エヴァンジェリスト氏に、続けて訊いた。

「使い易いんですよね。使っている人に訊くと皆、そう云うんですう
「ええ、使い易いですよ。全然違います」
「ですよねえ。いいなあ」
「機会があれば、切替えて下さい」
「ええ…………」

機会があれば私がセットアップもお手伝いしますし、その後も分らないことがあればサポートしますよ、とエヴァンジェリスト氏が云うことを期待していたのか、

「ええ…………」

と云ったまま、スチュワーデス(CA)は、エヴァンジェリスト氏の席の横にまだ立ったままでいた。

2002年11月8日、長崎を11:35発のJAL184便の機内でのことであった。






「やっぱりいいですよねえ。いいなあ」

未練がましくそう云うと、スチュワーデス(CA)は、ようやくエヴァンジェリスト氏の側を離れた。

前方に向いながら、スチュワーデス(CA)は振り返り、iBookを見て(いや、エヴァンジェリスト氏を見て、であったであろう)、

「ふふ」

と、声は出さず微笑んだ。




エヴァンジェリスト氏が出張に持ち歩く白いiBookは使い易いだけでなく、美しいものであった。スチュワーデス(CA)が羨ましがるのも無理はない。

黒いPowerBookを持ち歩いていた時にもやはり、スチュワーデス(CA)から、

「こんな奇麗なキーボード見たの初めてです」

等と声を掛けられたことは幾度かあったが、白いiBookはもっと美しかった(今=2017年のMacBookProやMacBookはもっと美しいけれど)。

エヴァンジェリスト氏は、レンタル期限切れで、会社用のiMacと出張用のPowerBookとを、それぞれ新iMacとiBookとに切替えたところであったのだ。

会社の皆は、エヴァンジェリスト氏のMacのことをなんだかんだとケチをつけていた。

Windowsの方が普及している、とか、Windowsの方がソフトウエアが多い、等と云う(Windowsの方が使い易い、とか、きれいだとは云わない)。

しかし、皆の本心は実は、

「iBookですか?」

と、エヴァンジェリスト氏に声を掛けてきたスチュワーデス(CA)と同じなのかもしれない。

本当は、その美しさ、使い易さに惹かれているのに、ただ切替える勇気を持てないだけなのかもしれなかった。


(続く)



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