2017年11月22日水曜日

「iBookですか?」[その16=最終回](垂涎のエヴァンジェリスト氏)



黒いPowerBookを持ち歩いていた時にもやはり、スチュワーデス(CA)から、

「こんな奇麗なキーボード見たの初めてです」

等と声を掛けられたことは幾度かあったが、白いiBookはもっと美しかった(今=2017年のMacBookProやMacBookはもっと美しいけれど)。

そこで、2002年11月8日、長崎を11:35発のJAL184便のスチュワーデス(CA)は、乗客のエヴァンジェリスト氏のiBookを見て、

「iBookですか?」
「いいですよねえ。アタシ、迷ったんです。Windows使ってるんですけど、iBookに切換えようかと思って……..でも、何か、勇気がなくって…….」
「使い易いんですよね。使っている人に訊くと皆、そう云うんですう
「やっぱりいいですよねえ。いいなあ」

と、エヴァンジェリスト氏に声を掛けてきたのであった。

そのスチュワーデス(CA)は、仕事を忘れたかの如く、なかなかエヴァンジェリスト氏のiBookから(或いは、エヴァンジェリスト氏から)離れることができなかったが、

「やっぱりいいですよねえ。いいなあ」

未練がましくそう云うと、スチュワーデス(CA)は、ようやくエヴァンジェリスト氏の側を離れた。

しかし、振り返り、iBookを見て(いや、エヴァンジェリスト氏を見て、であったであろう)、

「ふふ」

と、声を出さず微笑んだのであった。






「iBookですか?」

と、エヴァンジェリスト氏に声を掛けてきたスチュワーデス(CA)は到着迄の間、幾度かエヴァンジェリスト氏の横を通り過ぎながら、iBookに熱い視線を投げかけて行った。

一度だけだが、スチュワーデス(CA)は再度、エヴァンジェリスト氏の横に立つと、エヴァンジェリスト氏の方に思い切り上半身を屈め、声を掛けた。

「いいですね、ふふ

殆ど、頬をエヴァンジェリスト氏の頬につけんばかりであった。

「アタシ、もう我慢できません!」

という心の声が聞こえる程の距離であった。

いや、iBookで仕事をしながら、ふと眠っていたこともあったので、それは、夢か錯覚であったかもしれない………


羽田空港に到着してエヴァンジェリスト氏が飛行機を降りる時、そのスチュワーデス(CA)が氏に見せた視線は一見、iBookに対して以上に氏自身に何かを訴えたいかのようにも見えた。

だか、エヴァンジェリスト氏の理性は負けなかった。

エヴァンジェリスト氏の理性は負けなかったが、氏の鼻には、

「いいですね、ふふ

と、頬を間近に寄せてそう云ったスチュワーデス(CA)のファンデーションの匂いと彼女の口臭とが残っていた。



口臭といっても爽やかな口臭であった。関係を持った女性からだけ感じることのできるような口臭であった………


(おしまい)


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