シショー・エヴァンジェリストは、搭乗する飛行機の席に強い拘りがあった。
スチュワーデス(CA)が座る席の向いの席である。
エヴァンジェリスト氏を含む会社の部下たちは、その席を、『シショー’s シート』と呼んだ。
「シショーは、スチュワーデス(CA)がお好きなのだ」
「シショーは、スチュワーデス(CA)とお話をされたいのだ」
部下たちは、そう囁き合った。
『お話』をすることから始り、あわよくば『お話以上のこと』も期待されているのだと、皆思ったが、それを口にはしなかった。
しかし、ある時、エヴァンジェリスト氏は、思い切って、
「シショーは、スチュワーデス(CA)の前の席がお好きなんですね」
と、訊いてみたところ、シショーは、それを否定した。
「いや、違うんだよ。俺、閉所恐怖症なんだよ」
「?」
『いや、違う』て、何が違うのか、分らなかった。
「いや、違うんだよ。俺、閉所恐怖症なんだよ」
「?」
『いや、違う』て、何が違うのか、分らなかった。『スチュワーデス(CA)の前の席がお好きなんですね』と申し上げただけで、『スチュワーデス(CA)がお好きなんですね』と云ったのではないのだ。
「狭いところ苦手なんだ。だって、飛行機の席って前の席と近いだろ、あれ、苦手なんだよ」
「ええ」
「だからさ、スチュワーデス(CA)の前の席って、前が空いてるだろ。だから、あそこがいいんだよ」
「なるほど」
「でもさ、あれだよ。スチュワーデス(CA)の前の席っていっても、通路側だよ。窓側はさ、出っ張ってるやつがあるじゃない。あれがダメなんだよ。何しろ、俺、閉所恐怖症だから」
閉所恐怖症だから、というシショーの理屈には、一応の説得力はあり、納得はしないものの、エヴァンジェリスト氏は、それ以上の追求はしなかった。
しかし、シショーは別の時、こう仰言ったこともあったのだ。
「スチュワーデス(CA)と話するのがいいんだよね。へへ」
その時、シショーの頬は、ここまで緩むのかという程、緩んでいた。
だが、その時も、一応の理屈はおつけであった。
「だってね。スチュワーデス(CA)って、地方の美味しい店、色々と知っているんだよ。出張先の街のいい店が、分るんだよ、彼女たちと話してると」
しかし、シショーのそんな理屈は、やはり言い訳に過ぎないのでは、と思わせる出来事があったのだ。
(続く)
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