2017年11月15日水曜日

「iBookですか?」[その9](垂涎のエヴァンジェリスト氏)



飛行機の機内がまだ全面禁煙ではなかった頃の話である。

スチュワーデス(CA)が座る席の向いの席(通称:『シショー’s シート』)が大好きなシショー・エヴァンジェリストは、例えその席が喫煙席であったとしてもそこに座ることを選択された(シショーは、タバコをお喫いにならない)。

「シショーは、スチュワーデス(CA)がお好きなのだ」
「シショーは、スチュワーデス(CA)とお話をされたいのだ」

エヴァンジェリスト氏を含む会社の部下たちは、そう囁き合った。

しかし、それは、誤解である。

シショーが、『シショー’s シート』を選ぶのは、閉所恐怖症だからである。閉所恐怖症だから、前が空いているその席がいいのだ。

だから、『シショー’s シート』は、スチュワーデス(CA)が座る席の向いの席でも、通路側だ。窓側の席は、出っ張りがあるので、狭いところが苦手なシショーは選択しない。

尤も、シショーは、

「スチュワーデス(CA)と話するのがいいんだよね。へへ」

と仰言ったこともあり、疑惑は残る。

「だってね。スチュワーデス(CA)って、地方の美味しい店、色々と知っているんだよ。出張先の街のいい店が、分るんだよ、彼女たちと話してると」

という言い訳はされてはいたが。

そんなシショー・エヴァンジェリストとエヴァンジェリスト氏とが、またある時、一緒に地方に出張した。

往路便の飛行機の機内で、二人は並んで座っていた………






シショー・エヴァンジェリストとエヴァンジェリスト氏とは、普段、必ずしも飛行機で並びの席に座らない。

しかし、その時は、二人が並んで座る必要があった。

エヴァンジェリスト氏の方にその必要はなかったが、シショーとしては、どうしてもエヴァンジェリスト氏と並んで座りたかった。

エヴァンジェリスト氏に、教えを請いたかったのだ。『講演』について、エヴァンジェリスト氏に教えてもらいたかったのだ。

エヴァンジェリスト氏は、営業であるが、『講演』もしていた。今も(2017年)、『講演』活動をしている。

取扱商品に関連した『講演』を、その商品を購入されたお客様社員向けに行っているのだ。

その『講演』をシショーもやりたい、と云い出されたのだ。

ついては、エヴァンジェリスト氏の指導を受けようということなのである。

部下ではあるが、エヴァンジェリスト氏の方が、部署に長くおり、商品や市場についても詳しい。

「エヴァちゃん、ここなんだけどさあ…..」

『シショー’s シート』に着くなり、シショーは、『講演』資料のページをめくり、エヴァンジェリスト氏に訊いてきた。

「ああ、そこはですねえ…..」

と、エヴァンジェリスト氏が資料を指差して説明を始めると、シショーは、説明内容を必死に資料に書き込まれた。

折角、『シショー’s シート』に座っているのに、その時は、シショーは資料に目を落としたままで、前を向こうとしなかった。

フライト中、ずっと、エヴァンジェリスト氏に質問し、資料にメモを書く、その繰り返しであった。

二人の前には、席に着いたスチュワーデス(CA)がいた。すらっとした脚を斜めにして揃えていた。

しかし、スチュワーデス(CA)の美脚も、その時のシショーの目には入らなかった。

「ここは、これでいいの?」

シショーは、2ヶ月後に初の『講演』をする予定になっていたのだ。

「ええ、それでいいと云えばいいのですが….」

と答えながらも、エヴァンジェリスト氏の目には、スチュワーデス(CA)の美脚が目に入っていた。

美脚のスチュワーデス(CA)が、自分たちの方を見て、微笑みを浮かべていることも感じていた。

しかし、シショーは何もご覧になっていないし、何も感じてはいらっしゃらない。

「もったいない」

エヴァンジェリスト氏は、そう思ったが、

「ふうう……そうかあ……..」

シショーは、まだ『講演』の自信がないようであった。

「ここのところ、どうして……」




そうしている内に、飛行機は目的地の空港に着陸した。



(続く)







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