「今日は、ハワイからですか?」
と、搭乗した飛行機の機内で、エヴァンジェリスト氏が、スチュワーデス(CA)から声を掛けられたのは、人違いをされたからであった。
制服っぽいスーツを着、後方席に座り、しかも、イケメン(当時の表現だと、ハンサム)パイロットのような顔立ちをしていたエヴァンジェリスト氏を同僚のパイロット(憧れの機長)と、そのスチュワーデス(CA)は、見間違えたのではないかと思われた。
「は!?....し、失礼しました」
と、そそくさと後方に去って行ったスチュワーデス(CA)の顔が、赤くなっていたところからすると、憧れの機長というよりも、「一線」を越えてしまったことのある機長と見間違えたのかもしれなかった。
まあ、何にせよ、
「今日は、ハワイからですか?」
と声を掛けられたのは、人違いをされたからであったが、エヴァンジェリスト氏は、は、人違いではなく、スチュワーデス(CA)から声を掛けられたこともあった。
それは、『シショー』と一緒の時であった。
シショー・エヴァンジェリストは、搭乗する飛行機の席に強い拘りがあった。
シショー・エヴァンジェリストが座る席を、エヴァンジェリスト氏を含む会社の部下たちは、『シショー’s シート』と呼んだ。
『シショー’s シート』は、スチュワーデス(CA)が座る席の向いの席であった。
「シショーは、スチュワーデス(CA)がお好きなのだ」
部下たちは、そう囁き合った。
「シショーは、スチュワーデス(CA)とお話をされたいのだ」
部下たちは、そう確信していた。
『お話』をすることから始り、あわよくば『お話以上のこと』も期待されているのだと、皆思ったが、それを口にはしなかった。
しかし、ある時、エヴァンジェリスト氏は、思い切って、
「シショーは、スチュワーデス(CA)の前の席がお好きなんですね」
と、訊いてみたが、シショーは、それを否定した。
「いや、違うんだよ。俺、閉所恐怖症なんだよ」
「?」
『いや、違う』て、何が違うのか、分らなかった。
(続く)
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