「ペロペロ」
ブラインド・タッチで、ビエール・トンミー氏の指は、三度(みたび)、キーボードをそう叩いていた。
搭乗したJANA機内のビエール・トンミー氏は、白蛇の指のスチュワーデス(CA)が横顔を見せ、ピンクの唇が、スローモーションのようにゆっくり、ゆっくり、ゆっくり開いていくのに魅せられていたのだ。
「舐めたい」
と、ビエール・トンミー氏は、またまたまた、思わず、心の中でそう呟くと、口を半開きとし、唇の間から毒蛇のような湿った赤茶色の舌を出し、自らの唇を舐め回し始めた。
ビエール・トンミー氏には、自らが自らの意思とは別に叩くキーボードの音が耳に入っていなかった。
ビエール・トンミー氏を魅入らせた白蛇の指のスチュワーデス(CA)のピンクの唇は、
「xXxxxxですか?」
といった何がしかの言葉を発した。
ビエール・トンミー氏の数列前の男に向けた言葉であった。ビエール・トンミー氏は最初、その言葉をちゃんと聞き取れなかった。
しかし、『xXxxxx』は、時差で
「アイ・ブック」
といったように聞こえてきた。
「アイブック?......何だろう?..........I book…….予約する?」
ビエール・トンミー氏の頭は混乱した。
「乗客に頼まれて、乗継便の予約でもしてやると云うのであろうか?」
そんな疑問よりも気になったのが、スチュワーデス(CA)の笑顔であった。
スチュワーデス(CA)が、話し掛けた乗客に向けた笑顔は、営業スマイルではなかったのだ。
しかも、笑顔だが、どこか悩みを秘めた微妙な表情であったのだ。
スチュワーデス(CA)とその乗客(男)は、どんな関係なのか?
「一体、何者だ!?」
(続く)
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