2020年6月2日火曜日

治療の旅【江ノ島/鎌倉・編】[その25]






「君ほどの美貌があれば、石原プロ入りしても問題はないし、ヨットだとか、小型船舶だとかは、ボクより君の方が似合うと思うぞ」

江ノ島の『エスカー』の第2区間の乗り場を通り過ぎたところにある展望ウッドデッキから見えるヨットハーバーを見ながら、エヴァンジェリスト氏が、友人を唆した。

「いや、ボクは石原プロとはなんの関係もない。ボクは『高等遊民』だ。何もしないぞ」

ビエール・トンミー氏は、真剣に拒否をした。

「君にヨットは似合っているぞ。そうだ、若大将だ。ヨットといえば、石原裕次郎だろうが、若大将だってヨット姿が定番ではないか。少し歳をとったが、君は若大将だ。加山雄三を超える若大将だ。そう云われたことはないか?」




同じデッキで、石原プロを語る2人の妙な男に怪訝な視線を送っていた70歳代と思しき夫婦は、2人の妙な男がただの妙な男たちだと判ったようで、デッキを去って行った。

「……」

ビエール・トンミー氏は、友人の問いに答えなかった。老夫婦に妙な男たちを思われただろうと恥ずかしくなった訳ではなかった。

「(『みさを』….)」

そうだ。『みさを』にビエール・トンミー氏は、云われたことがあったのだ。

「ビーちゃんって、若大将みたいだね」

ある日、『みさを』は、上目遣いでそう云った。

「いや、そんなことないさ」

ビエール・トンミー氏は、照れた。

「でも…」

『みさを』の表情が曇った。


(続く)


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