(治療の旅【江ノ島/鎌倉・編】[その37]の続き)
「先ず、展望台フロアに行くぞ」
江ノ島の『シーキャンドル』のエレベーターに乗ると、ビエール・トンミー氏は、エヴァンジェリスト氏に行き先を告げた。
「その後に、展望デッキに出るからな」
そう説明しながらも、ビエール・トンミー氏は、まだ得もいえぬ違和感に捉えられていた。
「(変だぞ、変だぞ……)」
と思いながら、展望台フロアを一周したが、
「(ボクが『みさを』とそういう関係だったのは、結婚前だったが……)」
と、周りの景色を見ているようで見えてはいなかった。
しかし、
「うーん、ここは、『えのしま』というより、なんだか東京タワーだなあ」
というエヴァンジェリスト氏の妙な感想に、ビエール・トンミー氏は、現実に引戻された。
「は?...ああ、展望台の雰囲気のことか」
円形の塔であり、展望フロアがあるものは、確かに東京タワーに限らず、札幌テレビ塔にせよ、スカイツリーにせよ、似てはいる。
「うーむ、ボクの知っている『えのしま』には、こんな塔はなかった」
「君はそんなに前に江ノ島に来たことがあったのか?」
「ああ、『えのしま』には夏休みになると毎年、親に連れられて行っていた」
「ええ???君のご両親は、夏休みに、わざわざ広島からここまで子どもを連れてきていたのか?」
「ん?どうして、ボクの親がここまで来るんだ?」
「いや、それは君が今、云ったことではないか」
「え?ボクが?ボクはそんなことイチミリも云ってないぞ」
「君はやはり『病人』だ」
「確かに『病人』だが、ボクは子どもの頃、ここに来たことはない」
「えええ?」
(続く)
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