2020年6月1日月曜日

治療の旅【江ノ島/鎌倉・編】[その24]






「また仕事のことか?」

江ノ島の『エスカー』の第2区間の乗り場を通り過ぎたところにある展望ウッドデッキで、『仕事依存症』の友人が妙なことを云い出し、ビエール・トンミー氏は、心配した。

「うーむ、まあ、仕事といえば仕事になるだろうなあ」

エヴァンジェリスト氏は、いかにも深刻といった表情を見せた。

「あのヘッドセット野郎からの電話か?いや、小型船舶って仕事に関係するのか?」

エヴァンジェリスト氏は、自分はだ小型船舶の免許を取っていない、だから電話がかかって来ないのかも、と云ったのだ。

「いや、まき子夫人だ」
「ああ…」

ビエール・トンミー氏は、ようやく理解した。そして、友人のことを真剣に心配したことを後悔したが、友人の話に乗っていってやった。

「おお、そうだ。君がまだ小型船舶の免許を取っていないからかもな。石原プロの俳優は皆、小型船舶の免許を持っているんだろ?」

エヴァンジェリスト氏は、石原プロモーションに入ることを使命と勝手に思い込んでいるのだ。




「しかしなあ、そろそろ石原プロに入らないとなあ。渡さんは健康が不安だし、舘さん独りに負担をかける訳にはいかんからなあ」

前年(2015年)、渡哲也は急性心筋梗塞で入院し、手術を受けていた。

「じゃ、小型船舶の免許を取れよ」

というビエール・トンミー氏の冷やかしの言葉に、エヴァンジェリスト氏は眉を曇らせた。

「そうだがなあ、小型船舶の免許を取る金がない……しかし、君なら、金と暇を持て余しているだろう」
「はあ?」

ビエール・トンミー氏は、友人が何を云わんとするのか理解できなかった。

「ボクは、石原プロには入らんぞ」

同じデッキにいた70歳代と思しき夫婦が、石原プロを語る2人の妙な男に怪訝な視線を送っていた。


(続く)


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