(治療の旅【江ノ島/鎌倉・編】[その32]の続き)
「おお、そうか、君はまだチビリはしないのか」
ビエール・トンミー氏は、尿ではなく、否定の言葉を漏らした友人に対して、自らの言動を取り繕おうとした。
「いや、違うんだ…」
しかし、エヴァンジェリスト氏は、尚も否定の言葉を漏らした。
「え?何が違うんだ?」
ビエール・トンミー氏は、俯き加減の友人の顔を覗き込むようにした。
「違うんだ…ボクは、2時間おきに目が覚めたりはしないんだ」
「いや、そうか。すまなかった。友人だから、ついつい仲間だと思ってしまった」
「そういうことじゃない。ボクの睡眠時間は、そもそも3-4時間なんだ。短いと1-2時間のこともあるし、徹夜になることもある」
「なになにい。それはどういうことだ」
「歳をとると睡眠時間が短くなる…」
「そうかなあ?ボクは、間におしっこで起きるが、たっぷり7-8時間は寝るぞ」
「ああ、産業医にも、間違っている、と云われた。たかだか62歳で、『歳をとると』なんてことは云うな、と」
「おお、そうだ。産業医の云う通りだ。君は、やはり『病人』だ」
「ああ、ボクは、『病人』だ」
エヴァンジェリスト氏は、江ノ島の『サムエル・コッキング苑の植物を愛でることも得ず、己のリーガルのウオーキング・シューズに目を落とした。
「おお、いいぞ、いいぞ。その調子だ。その感じだ、『病人』は」
ビエール・トンミー氏は、『病人』然とした友人を褒めそやしながらも、真顔になって尋ねる。
「3-4時間しか寝なくて、何をしているんだ?」
(続く)
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